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第4章ー9 母ちゃんには敵わない
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「銀太、そろそろ飯だ。戻るか」
祖父に声をかけられて汗を拭う。
畑仕事は、重労働だ。
デスクワークで鈍った身体には堪える。
「体力落ちたんじゃねーが」
父親にからかわれる。
「仕方ねえだろう。体を動かす機会なんて取れないんだから」
「言い訳はいっちょまえだな。あの係長さんに聞いてみっがよ」
「な!仕事の事は話すんなよ」
地元に来ると、どうしても地元の言葉になるものだ。
「なんでだー?よっくど話聞いてみたいものだ。家の息子は、使い物になるかどうか」
「父さん!」
父親は、豪快に笑う。
「係長は、こんな田舎育ちじゃないんだから、あんまり話するとバカ丸出しになるからな。やめとけよ」
「バカ丸出しはひどいな」
「おれたちとは、住む世界が違う人だ」
「そんなにすげーのか」
鍬や鎌を持って、3人は連れ立って歩く。
「東大出てんだぞ」
「東大って、東京大学?」
祖父も口を挟む。
「あららら。頭いいんだな」
「見たことねーな。そげだ人」
「お前と一緒に役場さ来てもらったらいいんでねーか」
二人は、勝手な事を話す。
「ゆっくりと話をしてみたいもんだが。体調戻らないのか?母ちゃんが、一緒に飯食わないとダメだって騒いでいだぞ。具合悪い時ほどみんなと一緒にいないどダメだって」
田口は、嫌な予感がする。
自分が留守の間、保住にはちょっかいかけないように釘を刺してきたが、そんなことを気にする母親ではない。
「早く帰る」
田口は、スタスタと歩みを早めた。
しかし、その不安は的中していた。
「おかえり」
案の定。
帰宅すると、保住は居間に座っていた。
しかも、藍色の寝巻きを着せられて。
「母さん……!係長は療養できてるんだから、勝手にいじり回すなって!」
「まあ!そんな失礼な言い方しないのよ」
「田口」
テーブルの上のうどんは、半分程度平らげた跡が見られる。
少しは、昨日よりは食が上がったか。
「無理矢理やってるわけじゃないし。ちゃーんど係長さんにも相談してるし」
保住の目の前に座っている祖母もニコニコだ。
「銀太、本当にいいお友達がいていがったね」
「ばあちゃん、友達じゃないから。おれの上司」
「上司ってなんだい?」
「ばあちゃん……!」
家族との会話で四苦八苦している田口がおかしい。
保住は、吹き出す。
「な、笑わないでくださいよ」
「だって」
おかしいんだもの。
笑われた田口は不本意。
「あんた、係長さんに何て口聞いてんの」
母親は、呆れた顔をする。
自分でもそうだ。
そうなんだけど。
「お、係長さん、身体いいかい?」
そこに遅れて祖父と父親が入ってくる。
「あの、係長はやめてもらえませんか?」
「いやいや、係長さんは係長さんだべ」
「んだな」
それから、続々と人が増える。
芽衣が帰宅して、小学生二人組が揃うと、田口家はたちまち戦場と化す。
田口は頭が痛い。
昼食も手をつけず、さっさと保住の腕を引っ張り自室に戻る。
「そんな慌てなくても大丈夫だ。少しは起きて過ごさないと。本当に寝たきりだろうが」
「いけません。あんなうるさいところ」
「そうだろうか?楽しいのに。それに、お前のその訛り。可愛いな」
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