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第4章ー10 年頃娘
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「か、可愛いって……」
田口は、頬を染める。
「からかわないでください」
「別に。からかっていないだろう。あったかい話し方だ」
部屋に戻る途中。
半分開かれた部屋に芽衣がいるのを見かける。
彼女は、部活から帰ってきたものの、自室にこもりがちだ。
なにやら難しい顔をしてノートとにらめっこをしていた。
田口と保住は、ふと足を止める。
田口は、芽衣が心配だ。
こんな子ではなかった。
明るくて、田口によく懐いてくれていたのに。
思春期とは、こんなにも難しいものなのだろうか。
何と声をかけたらいいのかわからない。
田口の戸惑いを察知しているのか。
そもそもが気になっているのか。
保住は、目を細めて田口と芽衣を見比べてから、突然、芽衣の部屋に声をかけた。
「なにやら行き詰まっているようだが」
彼が芽衣に声をかけるだなんて、思いもよらない行動だ。
田口は、目を見張る。
芽衣も、弾かれたように顔を上げてから、さっとノートを隠した。
「別に。何もない、です」
「何もない顔はしていないぞ。失礼する」
「係長」
年頃の女の子の部屋に入るのは、身内でも恥ずかしいのに。
彼は御構い無し。
芽衣も、初対面に近い保住を警戒しているようだ。
じっと保住を見ていた。
「こんなおじさんだからな。少しは人生の先輩だ。困っていることがあれば話すのが一番だ。黙っていても、誰も察してくれることなんてないのだ」
「別に……」
「ほら、おじさんの田口がよく話を聞きたいと言う顔をしているぞ」
「係長!」
人をダシにして……と思いつつ、心配していたことには変わりない。
芽衣と話せるきっかけを作ってくれた保住に、内心感謝する。
「何か心配事でもあるのかい?おれも、なかなか帰ってこないからさ。悪いんだけど」
「別に……銀ちゃんのせいじゃないし」
「でも、もっと頻繁に帰れれば、芽衣ちゃんの相談にも乗れるし。あ!おれなんか相談相手にならない話?!ごめん!余計なお世話かよ?!」
田口は、顔を赤くする。
もしかして、好きな子の話だったりして。
そう思う。
「な……なんで銀ちゃんが赤くなる訳?」
「だって、好きな子の事、とか?」
田口の言葉に、逆に芽衣が顔を赤くする。
「そんなんじゃないよ!彼氏もいないし、好きな子なんていないし。こんなど田舎で、そんな子いないし」
「ど田舎?」
保住は、その言葉に引っかかる。
ああそうか。
彼は、口を挟む。
「もしかして、進路のこと?勉強か」
「え?」
田口は、目を瞬かせる。
芽衣は、はっとして視線を落とす。
図星か。
こんな田舎から抜け出したいのか?
彼女は、観念したのかポツポツと話し始める。
「お父さんとお母さんには言えない。じいちゃんたちにも。本当は、ここから出てやりたいことがあるんだけど、女の子は地元に残ってればいいって。いつも言ってるから」
「芽衣ちゃん……、ここじゃないところに行きたいの?」
「もっとちゃんと勉強して、やりたいことあるんだ。地元の高校には行きたくない。でも、勉強も捗らないし。誰にも相談できないし。なんだか、最近嫌なことばっかりだし」
随分、悩んでいたのだろう。
大人の田口でさえ、ここを出たことを悩むのだ。
芽衣に取ったら、最重要課題だ。
「銀ちゃんなら気持ち分かってくれるかな?なんても思ったけど忙しそうだし。電話も出来ないし」
「芽衣ちゃん。ごめん。気がついてやれなかったね」
「銀ちゃんが悪いんじゃないよ。忙しいでしょう?」
田口は、保住をちらりと見る。
「まあねえ」
「忙しくさせているつもりはないが」
「そうでしょうか?」
保住は、鈍感。
仕事のことは切れ者だが、そう言うところは鈍感。
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