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第4章ー12 恋心?
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結局。
保住が戻ってきたのは夕方だった。
「疲れたのではないですか?無茶してくれますね」
「すまない。つい、人に教えるとなると仕事のような感じになってきりがないな」
さすがに顔色が青い。
無理をしたのだろう。
「中学生の女子と気が合うなんて知りませんでしたよ」
保住は田口の部屋に入るなり、敷きっぱなしになっている布団にごろりと横になる。
「すまない。休ませてくれ」
「構いませんよ。おれに気を遣う必要はありません」
横になって一息つくと、彼は笑う。
「大した子だ。将来有望だな」
「芽依ちゃんは、昔から頭の回転は速い。だからこそ、田舎の雪割にはそぐわないんだろうなって思ってはいましたが。予想通りの悩みを抱えていたとは。気が付いてやれていませんでした。いつまでも子供だと思っていたのに。もう将来ことで悩みがあるなんて」
「今時の子供は情報過多だ。悩みも低年齢化しているのだろうな」
保住は、右腕を額に当てて目を閉じる。
自分はどうだったのだろうかと、問いながら芽依と話していた。
『係長さんはどうして東大に行ったの?夢があったから?』
彼女に問われた時。
答えられない自分を理解した。
いや。
当の昔から理解していたのだ。
『おれは勉強すること自体が目的だったからな。夢なんか一つもなかった。勉強が楽しかった。それだけだ』
「おれの人生は、何も考えもなく進んできているのだということを突き付けられるな」
「そうでしょうか。そうは見えませんけど」
「いやいや。それしかないだろう?この体たらくだ」
能力を持て余している、という言葉が適切なのだろうか。
田口は、そう思う。
きっと。
梅沢の一職員に収まるような男ではないのだろうけど。
でも。
ここにいてくれるから。
自分は、出会えたのではないか。
「勉強は半分だ。後は勉強の仕方を少し伝えた。少しは伸びてくれるといいが」
「そうですね。おれもよく分かっていませんから。今更、係長に仕事の仕方を習っている程度です。芽依ちゃんに勉強を教えるなんて、無理ですね」
「そうでもないだろう。お前はお前で優秀だ。自慢の部下だぞ」
「え!本当ですか?」
田口は驚いて保住を見るが、彼はそのまま寝入ってしまっているようだ。
もう夢の中。
夢うつつの発言に信ぴょう性は感じられないが。
でも。
それでも、嬉しい言葉だ。
田口は、そっと笑む。
「係長……いや。保住さん。ありがとうございます」
ふと伸ばした手が彼の前髪に係る。
はっとして、手を引っ込めた。
「な、おれは何をしている」
触れたい。
そう思ってしまったのがおかしい。
一人でてんやわんやになっている田口の気配なんか、気にもならないほど、保住は深く眠り込んでいる。
どうしてだろう。
この数ヶ月。
彼と出会ってからの自分は、それ以前の自分とは違うのだ。
保住から視線を外す。
心臓がドキドキして落ち着かない。
まるで。
「恋してるみたいで、おかしいじゃないか」
気のせいだ。
保住は上司であり、同性であり、恋愛の対象になんてなるはずがないのに。
澤井といる彼。
艶やかな笑みを見せる彼。
彼の存在を感じるだけで心臓が速まる。
自宅に帰ってからも保住のことばかり。
会いたい。
共に時間を過ごしたい。
笑顔を見ていたい。
守りたい。
そして。
触れてみたい。
おかしい。
変。
頭が痛む。
苦しいのは何故なのだろう。
ぎゅっと拳を握りしめて、田口は保住を見つめていた。
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