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第4章ー13 田口家の晩餐
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「すっかり芽衣が勉強教えてもらったそうで」
夕飯の席。
仕事から帰ってきた金臣は、保住に頭を下げた。
「余計なことをしました。ついつい。悪い癖です」
「いやいや。そうやって銀太も指導してもらってんでしょう?何から何まで、一族でおんぶに抱っこではね」
「兄さん」
昨晩は、寝入ってしまっていたので、食事を共にすることはなかったが、今晩はみんな揃っての晩餐だ。
真樹は、芽衣にこそこそと尋ねる。
「んでんで、係長さんはどんな感じだったのよ?」
「お母さん、なに野次馬すんの?!」
「だって〜、いいなー。私も教えてもらいたい」
「あのねえ」
芽衣の声が聞けるのは嬉しい。
なんだか、前の彼女に戻ったみたい。
保住は、どんな手を使ったのか。
田口は、日本酒を煽りながら家族の様子を観察する。
「芽衣は気難しいからな。迷惑かけてしまいましたね」
「そんなことはありません。すごく伸び代がある。やりたいことを伸ばせば、どんどん成長しますよ。田口も然りです」
褒められた田口と芽衣は、顔を見合わせて赤くなる。
「そんなことは」
「やだな。係長」
「田口、その係長ってやめてもらえないか?みんなが名前を呼んでくれないからな」
それを聞いて、田口の父親は笑う。
「確かにな。係長さんじゃおがしいよな」
そんな話をしていると、玄関が豪快に開いて男性が二人顔を出す。
「なんだい!銀太が嫁子連れてきだって聞いたもんだからよ」
「どこのべっぴんさんだい?」
田口は、吹き出す。
やってきたのは隣の家の同級生、名島親子だ。
「彼女じゃないし」
「なんだよ!隣のばあちゃんが、見だって言ってたぞ」
「銀太も良い年なのに。違うのか」
ぶうぶう言う二人に、田口の母親が苦笑して説明する。
「来てるのは銀太の職場の係長さんだ。体調崩してだがら療養しに来てんだよ」
自分のことか。
そこでやっと気がついた保住は、頭を下げる。
「保住です」
「な、なんだ。男じゃねーか」
「隣のばあちゃんも白内障だがらな」
名島親子は、笑い出す。
失礼な話だ。
「なんでそうなるかな……」
「そもそも、おめえが早く結婚しねーがら、そう言う噂になんだぞ?彼女できねーの?」
「悪かったな。仕事忙しいんだよ」
「またまた。彼女できねー奴は、大抵そう言う言い訳するもんだ、」
「んだな」
「うるさいな。ほっとけよ」
「いじけたぞ」
からかわれている田口は、子供みたいだ。
保住は、苦笑する。
それにしても、本当に賑やか。
とても仕事のことなんて考える余裕もないくらい、たくさんの人と関わる。
「こんなうるさくて、療養なんてできねーべ」
名島に言われて、図星でなにも言い返せない。
田口は、頭をかく。
本当に良かったのだろうかと。
そんな田口も、職場では見られない姿だ。
「いえ、とてもよくしていただいてます」
「おお!都会の人だ」
何がそう言わせるのか、保住には分からないが、東京や大阪のような大都会から来ているわけではない。
田舎の都市だ。
ここまで持ち上げられると、逆に恐縮してしまうものだ。
全く。
田口の周りにはいい人が多い。
それから。
翌日は、田口がクラス会で不在だったが、すっかり打ち解けた田口家の面々との時間を過ごす。
田口の父親や兄とは、政について。
田口の母親とは、田口の梅沢での暮らしぶりについて。
田口の祖父とは、農業について。
田口の祖母には、手を握られた。
芽衣とは勉強だけでなく、進路について。
子供達には虫取りに付き合わされた。
最後の晩餐には、近所に住む叔父家族もやってきて、まったくのお祭り騒ぎだった。
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