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第4章ー15 復帰
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そわそわした。
早めに自宅を出て職場に顔を出すと、みんな揃っていた。
「おはようございます!」
田口の声に、渡辺、矢部、谷口が顔を上げる。
「おー、このクソ忙しい時に堂々と休みを取った神経図太い新人君」
矢部の言葉は、棘があるけど悪意はない。
田口は、頭を下げる。
「すみませんでした」
「別にいいさ」
「ゆっくり休めたか?」
あんまり……と言いたいところだが。
「クラス会に行けました。本当にありがとうございます」
そう言って、お土産のせんべいを出す。
「お、雪割せんべいじゃん!うまいよな」
「米どころだからな」
「田口の実家って、雪割なんだな」
「そうなんですよ」
そんな会話をしていると、入り口が開いて保住が顔を出した。
「おはようございます」
「あ!」
「か、係長!!」
渡辺も矢部も谷口も。
みんな泣きそうだ。
「みなさん、ご迷惑をおかけしました。本日より復帰させていただきます」
「もういいんですか?」
「顔色悪いですよ」
「まだ休んでいなくて。いいのですか」
それぞれが口々に言うが、保住は取り合わない。
「平気です!休んでいた分、取り返します」
「係長、そんな張り切らなくても……」
自分の席に座り、係長ではないと処理できない案件の、書類の山へ手を伸ばそうとすると、ドンドンと重い音が響く。
一同は、ポカンとして音の主、田口を見た。
彼は500のペットボトルに入ったイオン水と麦茶を保住の机に置いていた。
「田口……?」
保住は、顔がひきつる。
「いいですか?人間が1日に必要な水分量は2.5リットル程度。食事から1リットル以上摂取する予定ですが、あなたの場合は、絶対的に仕事中の食事量が少ない。それに加えて、水分で摂取しなくてはいけない量は1リットルです。食事量も少ないし、水分も少ない。また干からびたら大変だ。しばらくの間、水分補給については、強制的に管理させてもらいます」
「た、田口……?」
保住だけではない。
他の3人も開いた口が塞がらないようにポカンとしている。
「水分は苦手だ」
「水分補給は一気にするものではありません。少しずつが肝要です。午前中一本、午後一本のペースで行きましょう」
「あ、あの……」
タジタジな保住は、珍しい。
矢部は、笑う。
「田口、本気モード」
谷口も同様だ。
「これは言うこと聞いたほうがよさそうですね。係長」
「そんな……」
「田口、本気ですね」
渡辺にも言われて、がっくりだ。
「なんだか、田口がたくましくなっちゃって。面白いな」
「勘弁してくれ、田口」
「いいえ、また入院なんてごめんです!絶対守ってもらいます!」
文化課振興係に久しぶりに賑やかさが戻ってくる。
他の部署のメンバーも、一安心という顔だ。
ガヤガヤしている部屋の扉が豪快に開いて澤井が顔を出した。
「出てきたなら、挨拶ぐらいしろ」
「すみません。まだ出勤されていなかったので。今から行くところでした」
「言い訳はいい。それより、おれの部屋の書類をなんとかしろ」
「分かりました」
保住はそう返答すると、澤井の後を追い姿を消す。
「金曜は田口もいないから、澤井局長の怒りマックスで大変だったんだから」
谷口の説明に、田口は笑う。
「まさか」
「そのまさか」
矢部が口を挟んだ。
「結局、局長が切れて書類はめちゃくちゃ。誰も復元できない訳」
「あちゃーですね」
「いや、係長が来れば大丈夫だ。あの人の安定剤は係長だろ」
「あ」
田口は、手を叩く。
「田口?」
「水分忘れて行きました」
「お前さ」
一同は、笑う。
その笑みは、安堵の笑み。
みんなが揃った嬉しさでもあった。
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