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第5章ー3 夕飯
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半年が経ち、年も近いせいか保住と田口は、仕事終了後も時間を過ごす機会が多かった。
とは言っても、目的は仕事なのだが。
完全なるプライベートはない。
あったとしたら、熱中症事件の時に実家で彼を預かった時がそれにあたる程度である。
それ以外は、もちろん仕事ばかりだ。
「それじゃ、今日は、これで失礼します」
保住が立ち上がる。
一同も時計を見て、定時を過ぎていることを確認した。
「本当だ。お疲れ様でした。おれも帰ろう」
「おれも」
それぞれが帰り支度なのを確認して、田口も立ち上がる。
「おれもお先に失礼します」
「今日はお疲れだったな!また次回もあるし。ゆっくり休めよ」
渡辺に肩を叩かれて、はにかみながら廊下に出た。
先に出た保住は、待っていてくれるのだろうか。
そんな思いが脳裏をかすめた瞬間、暗い廊下で人の気配がした。
壁に身を預けて保住が立っていたのだ。
彼は田口がやってきたことを確認すると、身体を起こす。
「行くぞ」
「はい」
だんだん、彼の考えていることが少しずつ理解できるようになってきた。
自分が先に事務室を出て、田口がすぐに出てくることを見越して、いや、そうしろという保住の意図を理解して出てくるものだと思っている証拠だ。
先に帰宅したのに、廊下で待っているところを、田口以外の職員に見られたら不思議がられるに決まっているからだ。
「廊下で待つからさっさと出てこい」
保住の意図は、そう言うものなのだろうと理解していたからこそ、一番に事務所を出たのだ。
言葉で指示されなくても、そう言った彼の「して欲しいこと」が分かるようになってきたのは、少し嬉しいことだった。
保住の背中を見つめながら、黙ってついていく。
今日は保住の行きたいところに行くと言っていた。
正直、田口にとったら場所は、どこでもいい。
ともかく、お礼が出来ればいいのだから。
彼との時間を過ごすことが出来ればいいのだから。
そう思いながら、着いて行くが、保住の足は止まらない。
どんどんと前に進んでいく。
田口としては、てっきり市役所周辺の店を想像していた。
彼が歩き出したからだ。
駅周辺だったり、遠いところだったら車に乗ったりするはずだと思ったが。
ところが今日は、どんどん徒歩で進んでいく。
見込み違いか。
予想通りにいかないと不安になるのが人間だ。
目の前を歩く保住に声をかけた。
「あの、係長。この辺の店ではないのですか?」
「ん?違うけど」
「あ、そうですか。あまり遠くに行くと、車を置いていくことになりますよ」
「大丈夫だ。どうせ、お前は徒歩だろう」
「そうですが」
「そう遠くないところだ。黙ってついてこい」
「はい……」
運動音痴という割には、こういう時の移動は早い。
リーチが違うから、田口の方が早く歩けるはずだが。
結構、速足にならないとついていけない。
せっせと彼の後ろをついていくと、いつもは閑散としている町がにぎわっていることに気が付いた。
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