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第5章ー4 例大祭
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「なんだか今日は、騒がしいですね。何かあるのですか?」
人込みになって、保住を見失わないように、必死に彼を追いかける。
「田口、今日は祭りだぞ」
「え?」
はっとして顔を上げる。
少し人込みが薄れて、開けた空間に出た瞬間。
保住が振り返って田口を見た。
大きな石造りの鳥居。
到着したのは、街の中心にある稲荷神社だった。
「今日は稲荷神社例大祭だ」
「そうでした。確かに」
毎年、10月の一週目の週末は秋のお祭りか。
梅沢にきてから何年も経つが、友達の少ない田口は、こういったイベントに足を運ぶことは少ない。
随分、昔。
大学生時代に、サークルの友達たちと来たのが最後かもしれない。
いつもだったら車が走っている車道を全面通行止めにして、歩行者天国の標識が出ている。
車道を歩くというのは、少し違和感だ。
警官が出てきて、車の進入を止めている様子も見受けられる。
片側一車線の幅広い道路の両脇には露店がずらりと並ぶ。
子供から大人まで楽しそうに、所狭しと行き交っている様は、いつもの梅沢の町並みとはかけ離れていた。
賑やか。
心がザワザワして、ワクワクしてくるのは日本人の血なのだろうか。
やはり、「祭」というイベントは誰しもが心動かされるものなのだろう。
「今日は、ここでご馳走してもらおうか」
「え?ここですか?」
「祭りは嫌いではないが、一人で来ても詰まらん。男二人で来るようなところでもないが」
「一人よりはマシ、と言うことですね」
「そう言うことだ」
致し方ないという言いっぷりだが、言葉とは裏腹に保住は、楽しそうだ。
仕事に夢中の時と、同じ顔付きをしている。
祭りが好きなのだろう。
目がいきいきとしていて、表情も明るい。
「小学生みたいですね」
田口は笑う。
一瞬、田口を見た保住は豪快に笑う。
「そうだな!お前は中学生だが、おれはもっと幼い。的確だ」
「肯定されると、突っ込みようがありませんよ。否定してください」
「そうだろうか。自覚している。気にしていない」
そういう問題か。
まごついている感覚なんて、気にもしないで保住は、歩き出す。
「まずは、稲荷様だな」
長蛇の列になっている参拝者の列の最後尾について、ほっとする。
参拝の間にも、両脇には露店が並ぶ。
ガラス細工の店。
焼き物の店。
チョコバナナやポテト、たこ焼きなどの露店もある。
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