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第6章ー6 みのりとの再会
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ビールを袋に抱えて、夜道を歩いていた。
残業だ。
今日も。
イベントごとは待ってはくれない。
昨年、星野一郎記念館のサロンで開催される演奏会の企画を持たされて、今年度も継続しての担当だ。
他の職員たちも、別件の企画でそれぞれが忙しい。
また、今年は大きい新規事業が入りそうな予感だ。
梅沢を舞台にした、オペラの制作である。
星野一郎の人生をオペラ仕立てで表現しようというコンセプトだ。
行政が主導でオペラの製作をするとは、なかなかないことであるし、梅沢としても前例がないことだ。
よくこんな企画を思いついて、オッケーを出す上層部がいるものだと半分、耳を疑ってしまう。
裏を返せば、それだけ星野一郎を売りたいのか。
いや、星野一郎しか切り札がないとも言える。
梅沢は、昔から観光地としては負け組だ。
雪割だと、米どころを推して名を売っているところだが、梅沢は観光地としての宣伝がとにかく下手。
果樹などが盛んであるという事も、なかなかPR出来ていない。
前職で農業の振興課係だった田口としては、そのあたりは力を入れていたはずなのだが。
なかなか功を奏することが出来なかったのは事実だ。
上司や同僚に恵まれなかったからかもしれない。
このメンバーで農業振興をしたら、かなりいい線に行くのではないかと思うくらいだ。
売りもない。
PRも下手。
中核市とは言え、厳しい立ち場の梅沢である。
だからこそ、星野一郎にかけているところも大きいのかもしれない。
今度こそ、成功させる。
そんな大きな事業を平の自分が担当することはあり得ないが、全力でサポートするつもりだ。
そんな仕事のことを考えて歩いていると、自宅マンションのすぐ側にあるお洒落な飲み屋から、若い女性たちが数名出てきた。
普段なら目にも止まらないものだが、彼女たちの会話が耳に飛び込んできて、つい視線を向ける。
「今日は、見込み違いだったわね」
「本当、時間の無駄だったわ」
「ごめん、だって向こうの幹事くんが、かっこよかったから友達も同じだと思うじゃん」
「みのりのチョイスは怪しいからなー」
そこまで聞いてはっとする。
立ち止まってしまった田口に、相手も気がついたようで、こちらを見た。
「あらやだ!こんなところ見られちゃった」
「みのり、さん?」
保住の妹のみのりは、ワンピースの可愛らしい格好だ。
さしずめ、男性の団体との飲み会だったのだろう。
「お久しぶりです。昨年は兄が色々ご迷惑をおかけしたのに、ご挨拶もしないですみませんでした」
みのりはぺこりと頭を下げた。
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