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第6章ー7 仕事ですから
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綺麗な女性は苦手だ。
オロオロして、黙って頭を下げる。
「仕事帰りですか?いつもこんなに遅いんですか?」
「いや。今日は残業で」
「兄に仕事押し付けられてません?あの人、父のこと嫌いなくせに、自分のしてることは、父と同じですからね。黙ってることないですよ。文句言ってやって良いんですから」
「いや」
文句なんか言えるはずない。
上司だ。
苦笑い。
「仕事ですから」
「また!田口さんが甘やかすから付け上がるんですよ!厳しくしてもらわないと」
「すみません」
なんで自分が怒られるのか分からないが、とりあえず謝っておく。
「あらやだ。また、いつもの調子が出ちゃった」
二人が立ち話をしていると、後ろにいたみのりの友達たちは、ワクワクした感じで声をかけてくる。
「あのー、みのり。どなたなの?」
「あ、お兄ちゃんの部下の人で田口さん」
「こんばんは。田口です」
一同は「きゃっ」と声を上げる。
取っ付きにくくて、鈍臭いから、どうしても職場では人気が出ないものだが、長身だし、整った顔立ちは、結構いい線を行くはずの田口だ。
先程までの男子に比べたら、いいのだろう。
みんな嬉しそうに寄ってくる。
女子は苦手だ。
田口は、少し後ずさる。
「みのりのお兄さんの部下ってことは、市役所ですか」
「え、ええ」
「公務員も悪くない」と、一同は顔を見合わせる。
「今度よかったら、わたし達と飲みに行きませんか?」
「しかし」
「私たち、梅沢銀行勤務なんです。時間は合わせますから。何人かお友達も一緒にどうでしょうか」
友達なんていない。
困っている田口を見兼ねて、みのりは口を挟む。
「だめだめ。お兄ちゃんにこき使われてる限りは、女子と飲み会なんてする余裕ないですもんね」
「えっと」
目を瞬かせてみのりを見ると、彼女は目配せをする。
話を合わせろというところか。
「すみません。毎晩、こんなもんで」
「えー!週末は休みでしょう?」
「イベント系なんで、休みもほとんどないんですよ」
「ほら!あんまり困らせないで。時間あるときに調整してもらえるようにお願いしておくから、今日は帰ろ」
「えー、つまんないの」
みのりは、納得しない友達たちの背中を押して方向を変えた。
「じゃあ、田口さん。また今度」
「みのりばっかりズルイー」
「お兄さんだってイケメンなのに」
女性の集まりは恐ろしい。
それを見送ってから、大きくため息を吐く。
手に持っているビールを飲む気にもなれない。
今日は寝よう。
そうしよう。
そう思ってマンションに足を向けると、ポケットの携帯が鳴る。
手にとって開いてみると、保住からメールが入っていた。
『明日、朝一で打ち合わせ。今日見た資料を直しておけ』
保住なら数分で終わる作業なのだろうけど、凡人の田口にとったら一時間はかかる作業だ。
「仕事するか」
軽く苦笑して、田口は自宅を目指した。
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