アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第7章ー5 おばちゃんの温かさ
-
売店に足を運ぶと、矢部の言葉を実感する。
本当に何もない。
お弁当類は、売り切れ。
残っているのは、おにぎりとサンドイッチくらいだ。
困ってそれらを眺めていると、売店のおばちゃんが、怪しむかのように眺める。
サボりだと思われたのだろうか。
別に言い訳をする必要もない。
おばちゃんにどう思われようと関係ないはずだが。
おにぎりを二個持ってレジに立つ。
「会議が押して。昼飯がずれ込んだんです。ああ、お腹空きました」
わざとらしい、よそよそしい言葉だ。
おばちゃんは、じろりと田口を見上げて、黙ってレジを打つ。
愛想のないおばちゃんだ。
よくクビにならないものだと、内心思っていると、おにぎりを入れた袋に、サンドイッチを入れた。
「あの」
「おまけ。お疲れ様」
「おばちゃん」
本当は、優しい人だったのか。
おばちゃんは黙って、おつりとおにぎりの袋を差し出した。
「ありがとうございます」
人は見た目ではないな。
そんなことを考える。
冷たそうに見えても、心の中はあったかい。
自席に戻ろうとして廊下を歩いて行くと、ふと顔を上げる。
「あれ?」
中庭に。
保住がいた。
彼は、中庭の桜の樹の下にあるベンチに座っていた。
「昼飯、食べないのかな?」
ご機嫌斜めな彼に、ちょっかいを出すのは嫌がられるかもしれない。
だけど。
放って置けないのだ。
田口は、中庭に繋がる扉を押して、足を向けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
84 / 344