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第7章ー6 心のドロドロ
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明日の会議は山場。
田口にも迷惑をかけていることを知りながらも、頼ってしまう自分もいる。
今までは全て、自分一人でやってきた。
大切なところを人任せにはできなかったのだ。
だけど、田口だったら大丈夫か。
そう思ってしまう。
「予算のところ、やり直しさせたら、徹夜だな。すまないな田口」
田口にメールを打ってからため息を吐くと、実家の母親から電話が入った。
彼女から連絡が来るときはロクなものではない。
だから、出る気もしないが、出ないなら出ないでしつこくかかってくる。
嫌なことは一度で済ませてしまいたい。
「はい」
『なお?元気?身体は大丈夫?』
「まあね」
ハスキーな母親の声は、機械を通してよく聞こえる。
「なに?」
『まあ、ぶっきらぼうね。そんなんじゃ彼女もできないからね』
「用事がないなら切るが」
『ちょっと、そうじゃなくて。今日電話したのはおじいさんのこと』
「あの人がどうしたって」
やっぱり。
面倒そうな話だ。
『体調を崩したみたいで入院しているようなの。お見舞いに行こうかどうしようか迷っているんだけど』
「別に行くことはないだろう」
『でも、結構な御年でしょう?なにかあったらって思うと』
ため息を吐く。
「父さんが死んだときだって、顔を出さなかった人だ。あの人が死んでも、おれたちが行く義理はないだろう?」
『なおは冷たいんだから』
「ともかく。明日、大事な会議があって立て込んでいるんだ。用事がそれだけなら切る」
『ちょっと、なお?』
さっさと携帯を切った。
嫌な話題を耳にしたものだ。
身体のどこかに引っかかって、離れてくれない。
気持ちが重くなる。
別に嫌いな訳ではない。
物心ついた時から、出会ったこともない人だから。
だけど、こうして、何かと関わってくるのは面倒だったのだ。
あれがずっと、心に引っかかっているのだ。
ドロドロとしたものが。
心のどこかに引っかかって、気分が悪いのだ。
田口に八つ当たりをしても仕方がないのに。
馬鹿みたいだ。
冷静さを欠くなんて、自分らしくもない。
大きくため息を吐く。
と、人が近付いて来る気配に気が付いて顔を上げる。
田口が白いビニール袋を提げて立っていた。
「昼飯。食べていないですよね」
彼はそう言って、保住の隣に座った。
この男は。
散々、当たり散らして、徹夜まがいのことまでさせたのに。
こうして近寄って来るのか。
呆れられていると思ったが。
保住は内心、戸惑う。
「別にいらない」
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