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第7章ー7 理解者
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「また。そんなこと言って」
彼は、そう言うと袋からサンドイッチとおにぎりを出した。
「お好きなのをどうぞ。足りないと思いますけど」
「部下におごってもらうつもりはない」
意地を張る必要もないのに。
心のドロドロが、心を荒立てるのか。
口から出てくる言葉は素直じゃない。
田口は少し苦笑してから、保住の手にサンドイッチを持たせた。
「どうぞ。おれもいただいたんです。おばちゃんに。おにぎりを食べる予定だったので、こちらはどうぞ。係長が食べないなら捨てます」
「……」
手に乗せられたサンドイッチに視線を落とした。
「さあ、食べましょうよ」
余計なことは言わないのか。
恨み言でも言われてもいいくらいなのだが。
袋を破っておにぎりを食べ始める彼を見て、保住も習ってサンドイッチを食べ始める。
腹が減っていたようだ。
そういえば、昨晩からなにも食べていなかったことを思い出す。
糖分が足りないと、頭も回らないものだ。
むしゃむしゃと食べてみると、久しぶりの食べ物は美味しく感じられた。
「うまい」
「そうですか。普通のサンドイッチですけど」
「……田口」
「はい」
「すまないな。八つ当たりした」
保住は、少し和らいだ気持ちに乗っかって田口に謝罪する。
「謝られるようなことはしてませんけど」
「いや。完全なる八つ当たりだ。しかも、昨晩は自宅で遅くまで仕事をさせた。お前の予算書が切り札になった。ありがとう」
頭を下げられた田口は、顔を赤くしている。
「そんなことやめてくださいよ。部下として当然の役割をしただけです。それに、八つ当たりなんかには入りませんよ。あんなの」
「そうだろうか」
どうしてなのだろうか。
今まで、人に甘えるなんてことはなかなかできないタイプなのに。
「お前にはつい甘えてしまうようだ」
「いいんです。別に。どうぞ甘えてください。いつも一人で気を張ってやっているじゃないですか。一人で踏ん張ることはないです」
そうか。
田口は。
自分のことをよく理解してくれているからなのだろうか。
ひょうひょうとこなす。
涼しい顔で。
苦労なく。
みんなから言われる言葉は、間違いが多い。
本当は、結構苦労もの。
悩みに悩み抜いた結果を出している。
寝る間も惜しんでいるのだが。
そういった保住の本当の一面を理解している人間は少ない。
もしかしたら、妹のみのりですら気が付いていないことかも知れないのに。
田口は、知っていてくれているのか。
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