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第7章ー8 八つ当たりの理由
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「おれ、家族多いし。いろいろなこと言われることも多いんですよ。どんと受け止めますから。どうぞ、八つ当たりしてください」
八つ当たりウェルカム、なんて言われたことは初めてだ。
保住は、苦笑する。
「本当。お前には参るな」
「そうでしょうか。おれなんて、なんの取り柄もありませんから。係長に使い道見つけてもらって、本当に嬉しいです」
「そうか」
「そうですよ。自分の特技も特性も分からないし。自分でも、どういう立ち位置がいいのかよく分かっていない。だけど、この部署に来て、自分のやるべきことが見えてくるし、自分ができることも見えてきた。楽しいです。仕事」
田口は、笑顔を見せる。
田口の笑顔は、なかなか拝めないものだ。
いつも無表情だからだ。
だが、一年とこうして過ごしていると、時々ひょっこり出てくる。
レアなおかげで、たまに目撃すると、心がほっこりする気がした。
心に引っかかっているドロドロが少し落ちていく。
「祖父が」
「え?」
保住は、サンドイッチを一切れ食べ終えてから、ふと呟く。
「祖父が入院したと、母から連絡があってな」
「……それは。いいのですか。行かなくて」
「病状も病院も分からん。聞いてもいない」
「どうして?」
どうして、田口に話す気になるのだろうか。
よく分からないが、口から自然に言葉が出てくる。
「祖父は銀行員で、長男である父親を同じ銀行員にするのが夢だった。だが、父は市役所を選び、落胆した祖父は父と喧嘩別れ。結局、父が死んでも葬式にも顔を出さない人だったから、おれは彼とは、ほとんど面識がないのだ」
「そんなことってあるんですね」
「親子の憎しみは、他人には計り知れないものがあるようだ。おれたちは祖父や祖母の形を知らない」
「そうですか……しかし、連絡は来るんですね」
「母が、どうしたものかと相談をしてくる。おれは知らない。父や母が、祖父たちとどういう付き合いをしていたのか、していなかったのかも含めてだ。おれに相談されても困るのだが、あの人も一人だからな。相談できる相手がいないようだ」
「でも、困りますね」
「そうだ。行くつもりはないのだろうが。自分の不安をこうしておれに押し付けてくる。おれも引き受けるつもりもないが、こうして心にとどまってしまうと、どうにも処理できないようだ」
田口は、そっと保住の横顔を見る。
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