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第8章ー8 触れたい
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「係長?」
「あー、むしゃくしゃする!お前のせいだからな!」
指を指されても意味がわからない。
「すみません」
何故、自分が謝らなくてはいけないのかも分からない。
しかも、何故ここに彼がいるのかも分からない。
避けられているはずなのだが。
分からないけど、頭を下げた。
「さっさと開けろ」
「は、はい!」
覚束ない手で鍵を開け、保住を自宅に招き入れた。
「あの」
「お前ばかり飲みに行って!」
「だって、係長は立て込んでいて欠席だと」
「立て込んでなどいない!仕事をしていただけだ」
「はあ……」
家に上がり込んで、保住はビールを開ける。
「まったくの時間の無駄だ。お前のせいで、ちっとも仕事がはかどらない」
「はあ……で、何でおれが、それで怒られるんですか」
「八つ当たりに決まっているじゃないか!八つ当たりしてもいいと言っていたからな!」
堂々たる八つ当たり宣言。
思わず笑い出す。
「何なんですか。突然来て。保住さんらしくて笑えます」
「失礼だな!おれらしいって……」
ビールをあおってから、保住は言葉を切って笑う。
「ああ、おれらしいかもな」
「はい。あなたらしい」
ほっこりしてしまう。
ひとしきり笑った後、保住はポツリと言った。
「二日しか持たなかった」
「え?」
「お前に甘えることをやめてみて、二日しか持たなかったと言ったのだ!」
言葉は分かる。
分かるのだが。
意味が分からない。
何を言っているのだ?
「甘えるとは?」
「おれは、お前に甘えているようだ」
「ど、どこがです?」
「すべてだ!」
酔いのせいなのか、それとも恥ずかしいのか。
保住は顔を赤くする。
「今まで、仕事の肝を人に任せたことはなかったのに、お前にはやらせてしまう」
「はあ……」
「プライベートのこともそうだ。人に話をするようなタイプではなかった」
「はあ……」
「一人でいて寂しい気持ちになったこともない!」
恥ずかしいのか。
そうか。
保住は、精一杯自分の気持ちを述べているのか。
恥ずかしさからなのか。
少し潤んだ瞳が、妙に艶めかしくて、ドキドキと動悸が起こる。
自分も素面ではない。
触れたい。
そう思ってしまう。
不意に差し出した手が、保住の頬に触れた。
「田口?」
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