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第9章ー3 祖父
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向かった先は、個室。
しかも、他の病室とは扉の種類も違う。
ビップ室か。
木目調の素敵な扉の前に立つと、なんとなく気が重い。
本人が一番、気が重いはずなのに。
一緒にいる自分まで緊張してきた。
銀行の頭取までした男との面会か。
恐ろしい。
どんな強面の御仁がいるのだろうか。
しかし、静か。
危篤?
危ないなら、家族がもっと駆けつけていても良さそうだが……。
少し躊躇っている保住の肩に、そっと手を載せる。
「大丈夫ですよ」
自分の不安な気持ちを抑え込んで、声をかけた。
珍しく顔色の悪い彼は、そっと田口を見る。
そして、一呼吸おいて、ドアをノックした。
「はい」
中から明るい男の声。
田口には、誰だか分からないが、保住には分かる。
叔父の征貴だ。
今朝、電話をくれた張本人。
「おはようございます。尚貴ですが」
彼は、そう告げる。
「どうぞ。待ってました。なおくん」
がらっと扉が開くと、恰幅のいい、人当たりの良さそうな男性が顔を出した。
「やあ、待っていたよ。悪いね。朝から」
ほんわかした笑顔の叔父、征貴の表情を見た瞬間。
保住は、騙されたと理解する。
危篤などではない。
「帰ります」
そう言った保住の腕をいち早く捕まえた征貴は、「そう言わないでよ」と苦笑いだ。
そして、田口に気が付く。
「知人です。足がなかったので送ってもらったのです」
「なおくんが友達連れてくるなんて、初めてかな?」
「そう言う訳でもないと思いますけど」
そう言うと、田口に視線を寄越す。
「田口です。申し訳ありません。このような大事な場面に、部外者の自分が同席させてもらってしまって……」
田口の挨拶に、征貴は笑う。
「随分、お堅いお友達だね」
「田口は、根が真面目で」
「そのようだね」
「しかし、それとこれとは別です。申し訳ないですが、おれは……」
「そんなこと言わずに」
征貴は、強引に保住の腕を引く。
体系的に、征貴が勝るに決まっている。
保住は、軽々と病室に入れられた。
田口もそれに続く。
中は普通の病室の何倍の広さがあるのだろうか。
ホテルのような作りだ。
思わず周囲を見渡す。
窓辺に、木目調のベッドが置いてあり、そこに新聞を広げている老人がいた。
恰幅のいい、強面の男性を想像していたが、意外。
線の細い、柔らかい瞳の男だった。
白髪はだいぶ薄くなっている。
が、保住に似ている。
二人が血縁であることは一目瞭然だった。
彼は目を瞬かせて、保住を見ていた。
「尚柾……?」
そう呟いた彼の言葉に、保住は表情を険しくした。
「父ではありません」
また、その言葉を受けた老人は、はっと弾かれたように顔を上げて、首を横に振った。
「すまない。朦朧としているのだろうか。尚貴だな」
「そうです。初めまして、でしょうか?」
保住は、表情が硬い。
田口は、その後ろで大人しく様子を見守っていた。
「初めてではない。尚貴は覚えていないと思うが、君が小さいときに一度だけ、抱かせてもらったことがある」
「そんなことがあったのでしょうか。初耳ですが」
「そうだろうな。加奈子さんに、こっそり叶えてもらった望みだ。彼女は口外しないでくれていたのだろう」
「母、ですか」
加奈子が祖父と繋がっているとは思ってもみなかった。
そんなことを微塵も話をしない。
祖父である征司は、80になるところだ。
その割に、背筋もぴんとして、元気そうに見えるが。
征司は、目を細めて保住を眺めていた。
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