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第14章ー4 遠い
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翌日。
保住の案が何なのかは分からないまま日が昇った。
朝、早めに出勤すると、保住だけが出てきていた。
心配で眠れなかったのだ。
「おはようございます」
「おはよう」
「あの……」
田口は言葉を切る。
人を寄せ付けない雰囲気に、言葉が出ないのだ。
なぜ?
どうして?
自問自答しても、答えは見つからない。
今日の彼は、余所行き。
教育長研修会の時を、彷彿させる出で立ちだ。
黒のスーツに赤いネクタイをしていた。
「係長、今日は何か……」
「今日は一日出張だ」
「どこへですか」
「東京に行ってくる」
聞いていない。
突然の?
昨日の件?
いつもだったら、色々教えてもらえるのに。
何だかやっぱり彼との距離が遠いのだ。
嫌われた?
避けられている?
「あ、あの。係長……」
声をかけて手を伸ばした瞬間。
「準備出来たか」
そこに澤井が顔を出す。
「ええ」
田口を見ていたはずの保住の視線は、澤井に向いてしまった。
「そうか。正念場だ。気合い入れとけよ」
「分かっていますよ」
澤井と一緒?
田口は、目を瞬かせる。
「帰りは何時になるか分からない。渡辺さんにはメールしておいたから。じゃ」
保住はそう言い残すと、澤井と事務所を出て行った。
「いってらっしゃい……」
何故だろう。
「やっぱりまだ怒ってるのかな……」
いいや。
何かが違う。
そんな話ではない気がする。
怒っていたら、きっと。
ドンと感情をぶつける人だ。
八つ当たりされたり。
甘えられたり。
頼られたり。
それなのに。
遠い。
手を伸ばせば届く距離なのに。
「保住さん」と名前で呼ぶのが憚られる。
どうして。
「何で?」
田口は、ため息を吐いた。
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