アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
01 帰ってきた男1
-
山々に囲まれた盆地。
閉鎖的なその場所、梅沢市にそれはあった。
ーー星音堂(せいおんどう)。
この話の舞台になる場所。
田舎の小さな音楽ホールである。
星音堂のある梅沢市は音楽が盛んであった。
「音楽」と言っても様々なジャンルがあるが、特にここではクラシックの分野においての活動を指す。
音楽を愛する地域性なのだろうか。
町の規模に対して他の市町村と比べると、演奏会の開催回数が断然多い。
また、一般市民が活動する団体も多い。
活動の内容は、合唱や管弦楽、吹奏楽などの多岐にわたる。
全国的にも名前をとどろかせている団体もちらほら見受けられた。
そんな町の音楽家たちを支えている施設の一つが星音堂であった。
音楽が盛んなだけあって、市内には音楽ホールは十軒近くある。
文化センター、文化会館、公会堂、……そして星音堂。
この中で星音堂は、規模が小さいほうだ。
しかし、小さいとはいえ、響きを重視された造りは、地域を越えて全国的に愛されている施設でもあった。
そして、市内で唯一パイプオルガンを保有している施設でもある。
熊谷蒼(くまがい あお)は、この星音堂に勤務をしてニ年目になる。
まだまだ新人だ。
星音堂は市役所管轄の施設で、職員たちは本庁からの出向だ。
男性ばかりの少数人数の職場では、異動や入れ替わりと言うものが極端に少ない。
だから、ニ年経っても蒼の下に新しく入ってくる職員はおらず、いつまで経っても彼は新人扱いになっているのだった。
星音堂の仕事は激務。
施設管理から、イベントの企画、全てをこなさなくてはいけないオールマイティさが必要とされるのだ。
しかも、ホールの営業時間に合わせて勤務が組まれるので、労働条件が過酷であった。
音楽関係のイベントと言ったら週末に重なることが多い。
完全週休二日で、週末はお休みと決まっているものだが、ここではそうはいかない。
週末こそ忙しい。
また、ホール以外にある練習部屋の使用時間は9時から21時になっているので、遅番勤務と言うものが待っていた。
彼らは公務員として市役所に就職したものの、結局は民間企業と同じような不規則な勤務をこなさなければならなかった。
遅番は二名で行うことになっている。
残っている時間は、自分の仕事をこなす。
21時になれば練習を終えた団体が、練習室の鍵と使用簿を返却に来るので、それを受け取って、利用状況のチェックをしつつ、戸締りをして帰宅する。
課長も入れて、総勢七名と言う少数人数の体制では、遅番当番は週に何度も回ってくるものであった。
シフトの調子では一日おきに回ってくる時もあって、地獄の勤務であることは間違いがなかった。
今日の遅番は蒼と、そして先輩の星野。
蒼は小柄な身体をいっぱい伸ばしてあくびをした。
「ふわ~……」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 869