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01 帰ってきた男3
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星野の声に日誌を見ていた蒼は、ビックリして視線を向ける。
「星野さん?」
「いてて……」
「すみません」
男は、少し跳ね飛ばしてしまった星野に手を差し出す。
大きいけど繊細そうな指を見つめて、星野は、はっとして顔を上げる。
そして男を見て嬉しそうに声を上げた。
「お前……! 関口じゃないか」
男は嬉しそうに瞳を細めて、星野を見ていた。
「星野さん! 逢いたかったです」
「なんだお前か~。ずいぶんでかい男だと思ったら……」
関口と呼ばれた男は若い。
もしかしたら、蒼よりも若いのではないだろうか。
彼は事務所の入り口に頭が届いてしまいそうなほど長身で痩せていた。
一番印象に残るのは楕円形の眼鏡。
少し赤っぽい髪の色は肌も白いことから色素が薄いためのようだ。
不自然な色ではない。
無造作に伸びた髪が彼を幼く見せていた。
肩から下がっているケースは、ヴァイオリンだろう。
いくら音楽をやったことのない蒼でも2年も働いていれば楽器のケースくらい、何が入っているのか分かる。
自分よりも若く、自信がありそうな態度。
なんだか蒼にはないものを感じて、思わず見入ってしまった。
星野は、にこにこして彼と話しこんでいる。
「お前、帰ってきていたのか? 海外に行っていたって聞いていたけど……」
なんとも優しい眼だった。
蒼なんかは見たことがないような……。
星野とは、随分親しい間柄。
そんなところだろう。
「無事帰国です。長かったですよ」
「でも楽しく勉強が出来たんじゃないのか?」
「そうですね。楽しかったです」
「市民に戻ってきたのか?」
「ええ。柴田先生と約束していましたから……」
微笑ましい再会なのだろうか?
蒼は二人の様子を見守る。
しかし、ふと視線が合った。
星野と話しているはずなのに、関口は蒼を見た。
「……」
じっと見据えられると、どうしてよいのか……。
関口の眼鏡の奥、瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
どっきりして息を潜める。
視線を外そうとしても逃れられない。
そんな気がしたのだ。
息苦しくて、身体を動かそうとした瞬間、星野の声が響いた。
「おい、聞いてんのか、お前」
それを合図に視線が外れた。
「ええ。もちろんですよ。何をしているのかってことですよね?」
「聞いてるならちゃんと返事しろよ」
星野は苦笑する。
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