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02 雨夜4
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彼は、きっと、小さいわけではない。
けれど、自分から見たら小柄で、ちまっとした男だった。
2年前にはいなかった。
自分は、小学校の頃からここに遊びに来ていたから、職員とは顔馴染みだ。
星野は、いつも文句を言っていたけど笑顔で迎えてくれた。
他の職員に至ってもそうだった。
ここは、彼にとって安らぎの場所。
星音堂には、関口の大好きなものがたくさん詰まっているから。
演奏会。
リサイタル。
レッスン室。
ピアノ。
パイプオルガン。
ホールの響き……。
全て、大好きなもの。
足しげく通う内に、ここは自分の居場所なのだと錯覚していた。
だけど、少し留守にした間に知らない男が入り込んでいたのだ。
しかも、すっかり馴染んでいる。
それがなんだか、無性に腹立たしく感じられた。
意味はないのに。
自分の安心の場所が。
あの男に取られてしまったような、変な被害妄想。
「皆さん、お疲れ様です!お早くお願いします」
はっとして顔を上げる。
あの男。
入り口に佇んでいる男に視線を向ける。
「蒼ちゃん!ねえ、今日もご飯食べに行こうよ」
「し、仕事中なので……」
「けち~!」
先日同様、女性二人に囲まれて困惑している蒼がいた。
ぱつんと切ってしまった前髪。
漆黒の髪とあわせて、大きな瞳も深い闇のような色をしている。
こんなに黒くて、光を帯びている瞳をした人間を、見たことが無い。
綺麗だなと思った。
黒曜石みたいだ。
初めて逢った時。
見入ってしまったことを思い出す。
「また、始まった」
他の団員たちも苦笑している。
どうやら、毎度のことらしかった。
「ささ、出てください。立ち止まらないで下さい!皆さんが出られませんから!」
蒼は、おどおどしていたもの、気を取り直して女性たちの背中を押す。
「ちょっと~」
「今日の蒼ちゃんは、強気で素敵」
ここまでからかわれてしまうと気の毒だ。
関口は、無言のままヴァイオリンを肩にかけ、出入り口に向かう。
そして、蒼の前で歩みを止めた。
彼は、関口を見上げて、表情を険しくする。
先日。
彼とは、話もしていないし、何かしたつもりはないのだが。
どうやら、関口自身対して、いい印象を持たなかったようだ。
じっと見つめてやったのが、悪かったのだろうか。
嫌がっているのは、重々承知だったのに。
視線が外せなくて、不躾だな、と思いながらも見つめてしまったからか?
面白い。
関口は思わず苦笑した。
一方の蒼は、彼に笑われたことが癪に触ったらしい。
前回に引き続き。
馬鹿にされてばかり。
そう感じる。
む~と考えてから頷く。
なにかを思いついたらしい。
「あの!」
蒼から切り出してくるとは思わなかった。
更におかしくなって彼を見つめる。
何を言い出す気か。
彼は、頬を赤くして関口を見上げた。
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