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02 雨夜13
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「あれ?自分で作ったのに美味しい気がする……」
「自分で自分を褒めているのもどうかと思いますけど。美味しいですよ。本当に」
まっすぐに見つめてくる彼の視線から逃れ、少し俯く。
人との交流が苦手な蒼だ。
関口の目力にはやられる。
「うん……。ありがとう……」
今日は一日、大変だった。
最悪だと思っていたのに。
こうして心も温まった。
もくもく食べていると、関口が声を上げる。
「本が好きなんだな」
彼は、壁一面の本棚を眺めていた。
蒼の部屋は何も無い。
片面に本棚。
片面にテレビ。
窓側にはベッド。
殺風景な実用的な部屋。
「昔から好きなんだ。おれ、あんまり人と付き合うのって苦手だし」
初対面の彼に、こんなことを話しても仕方がない。
それに。
この家に他人を入れたのは初めてだ。
自分のプライベートな部分を、人にさらけ出すのは気恥ずかしい。
箸を置いて、蒼は席を立った。
「ごちそうさまでした!おれもお風呂入って来る!」
時計は23時を回っていた。
明日も仕事だし。
どんぶりを持ち上げようとして、ふと止められた。
「どうぞ。洗い物はしますから」
「本当に?ありがとう」
お互いに、お腹も満たされて心が落ち着いたのか。
にっこり笑顔を見せ、蒼は姿を消した。
蒼がいなくなってしまうと室内は静寂に包まれた。
関口は、洗い物を終えてベッドの横に用意してある蒲団に横になり考えを巡らせる。
蒼と言う男。
不思議な男だ。
暖かい光みたいな人なのに。
ふとそれが翳る。
単純だと思えば、複雑な何かを感じる。
彼には、矛盾が孕む。
それが何なのか。
知りたい。
そう思ってしまう。
最初は、星音堂の場所をとられてしまったと思い苛立っていじめたくなった。
でも。
今は如何なのだろう?
蒼に笑顔を向けられたら……。
どきどきしてしまった。
「可愛い……」
ぼそっと呟いてからはっと我に返る。
なにを考えているのだ。
自分は。
びっくりして思わず、身体を起こした。
「おれは……」
なんだ?
なに?
この気持ち。
一人で戸惑っていると、気配を感じた。
「どうしたの?」
そこには蒼が首を傾げて立っていた。
「い、いや……」
関口は視線を外そうとしたが、ふっと視線を戻す。
「……何?」
「顔が赤い」
「え?」
風呂上がりだからだろうか。
側によってまじまじと見つめる。
「な、何?」
「風邪でも引いたのでは?」
「えっと……疲れたんだよ。きっと。雨にも打たれたし」
小柄な蒼の背中を押して、さっさとベッドに連れて行く。
「早く寝たほうがいい。風邪になったら大変だ。おれが世話をした意味がない」
「関口……」
「おれはいい。もっと暖かくして」
自分の蒲団も蒼に掛ける。
「ちょっと!」
半分強引なやり方に抗議をするが、彼はふざけているわけではないらしい。
真剣な表情に、蒼は黙り込む。
「ごめん」
「いいんだ」
布団から半分顔を出している蒼を見て、関口はなんだかほっとしたのと同時に、疑問の嵐に巻き込まれていた。
なぜなのだろう?
一緒にいればいるほど。
大切にしたくなる。
この男は、自分にとってどんな存在になっているのだろうか?
関口は、布団に入っている蒼をじっと見つめた。
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