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06 愛しい人1
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星音堂。
練習室。
関口は、ヴァイオリンをピアノの上に置き、両手を打ち鳴らしていた。
目の前には少女が一人。
彼女は、ヴァイオリンを持ってぽかんとしている。
二つに結んだ髪。
年のころは9、10歳と言ったところだろうか。
赤いワンピースに白いタイツ。
育ちのよさそうな子だった。
彼女は椅子に座り、関口を見上げている。
「ここは。トントントトーンってリズム」
関口が手を叩くと、目の間にいた少女は目を大きくしてぼけっとしている。
彼の声だけが広い練習室に響いていた。
何度か同じリズムを繰り返して教えてみるが、彼女はぽかんとしているばかり。
いい加減に彼も痺れを切らして強い口調で少女を見据える。
「ゆうちゃん。わかった?」
「トントントトーン……?」
口のリズムを復唱しようとするが曖昧だ。
分かっていない顔である。
「もう一回叩くよ」
関口は苦笑して手拍子をする。
全く興味がないわけではないのだろう。
彼のリズムを覚えようと、一緒に口ずさんでいる。
一生懸命に取り組んでいるその姿が微笑ましい。
思わず笑ってしまった。
「じゃあ最初から。今みたいにトントンで歌ってみようね」
「はい。トントトトトーン、トトトトントーントトトトーン……」
リズムを聞き頷いていると、急にゆうちゃんは癇癪を起こした。
「つまんない!」
「ゆうちゃん」
「ヴァイオリン弾きに来たんだもん!歌の練習しに来たんじゃないもん!こんな簡単な曲はつまんない!」
ぶすくれて今にも泣き出しそうだ。
一生懸命にやろうと言う努力は分かるが、思うように行かないと怒ってしまうのが子どもなのだろう。
子どもに教えるのは楽じゃないと思う。
関口は、苦笑した。
「じゃあ、休憩にしようか」
「休憩?」
「疲れたんでしょう?」
めそめそして彼女は頷く。
「休憩の間に一曲聞いてもらおうかな」
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