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08 安寧のとき4
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「まあ、圭くん、恋人が出来たのね。コンクールで練習しなくてはいけない時に、いいの?」
だから恋人ではない。
関口は、慌てて訂正しようとするが、この夫婦は勝手に話を進めていく。
「いいんだ。コンクールは精神的な戦いが大きいし。愛しい人に逢って、気持ちを慰めていかないと乗り切れないよ。今回、決めたきっかけもその人だしね。大きな支えになってくれるはずだよ」
「いいですね。そういうの」
もう諦めた。
関口は、大きくため息を吐いて苦笑する。
「先生の支えは奥さんですもんね」
「まあ!なんだか久しぶりに会ったと思ったら口が上手くなっちゃったんじゃないの」
彼女が来ると明るい。
昔から救われる部分は多いのだ。
柴田だって教師というストレスの多い生活をやり過ごせているのは、彼女のおかげだろう。
関口は、この夫婦が好きだった。
「そうだ。圭くんが優勝したら家で鍋やりましょう!」
「夏だぞ。7月だし……」
「まあ。夏の鍋もいいじゃない。そうね。三人ではつまらないから、その圭くんの恋人も一緒に」
「ええっ!?」
「いいな。おれも見てみたい」
「……」
それは困る。
いつも見ているし、話もしていますと、言いたいくらい。
柴田と蒼は、星音堂を通して面識もあるのだ。
まさか、蒼だなんて言えない。
しかも、二人は勝手に恋人だと思っているし。
こんな状態で蒼を連れて来たら大変なことになってしまう。
適当に誤魔化しておくしかないだろう。
「はは……。考えておきます」
「考えておく、じゃなくて決まりだよ。練習室貸す対価としてね」
「ぐ……ッ」
それを言われてしまうと弱い。
「楽しみが増えたなあ」
「そうですね」
「あの。まだ優勝するとは決まっていませんし」
関口は、おろおろする。
しかし、柴田は豪快に笑った。
「お前ねえ。優勝してやるぞという意気込みがなければ、あっという間に蹴り落とされるぞ。分かっているだろう?それくらい」
「……はい」
それは知っている。
コンクールの経験は多いのだから。
コンクールは魔物だ。
ダメになっていく人。
脚光を浴びる人。
よく分かっている。
「よし。昼飯食べてから練習していけ。夜は一緒に出るか。オケ練習あるしな」
「ありがとうございます」
にっこり笑顔の彼に励まされ、関口は気持ちを新たにした。
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