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08 安寧のとき5
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蒼のおかげ。
そう、なのだろうな。
柴田と家からの帰り道。
車を運転しながら、関口はそう思う。
先日。
コンクールの案内を見て足がすくんだ。
自分が、コンクールから遠のいた原因を作ってくれた男が審査員なのだ。
しかも、会場はあの時と同じ星音堂。
本当なら、破いて捨ててしまいたいくらいの話なのに。
蒼の顔がちらついて離れない。
突然、出会った彼。
生意気。
ドジなくせに偉そうで。
でも、どこか頼りがなくて。
出会ってから一カ月以上たつ。
初めて、蒼の家に泊まったその日から。
関口の頭の中は彼でいっぱいだ。
寝ても覚めても。
楽器を弾いている間も。
それは、いい意味でだ。
彼を思いながら弾く演奏は、どこかいつもとは違くて。
『お前、どうしたの?恋でもした?』
友人にからかわれて、はっと気がついた。
恋?
恋なのか?
今まで、対して人に心動かされたことはなかった。
音楽一筋。
立場も立場だから、寄ってくる女の子は何人もいたが。
関口自身が、心動かされることは、そうなかったのだ。
だがしかし。
相手は、あいにく。
可愛い女の子ではない。
蒼は列記とした男。
スーツを着た地方公務員。
そんなことあるのだろうか。
東京に帰ってから、かなり自問自答した。
そして、出た結論。
好きかどうかは分からない。
だけど、蒼といると落ち着く。
そう結論付けたのだ。
7月に開催されるコンクールに出る。
安心材料がそばにいてくれたら、なんだか出来そうな気がする。
金がないのもある。
だけど、実家にいれば、仕事をしなくても食べさせてはもらえる。
背伸びしなくてもいい環境なのに。
いつまでも、それではダメなのだ。
柴田との約束を守ってコンサートマスターをこなす。
そして、プロとしての第一歩を踏み出すための準備を、梅沢を拠点として取り組む。
それが、関口の構想だ。
そして、それを決めさせたのは。
蒼。
梅沢で出会った彼がそうさせたのだ。
蒼への気持ちは、まだ薄ぼんやりしていてはっきりしてはいないけど。
でも。
彼がそうさせた。
それだけは理解できた。
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