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10 当てのない想い2
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追い出された。
自転車に乗ろうと思ったが、息が切れる。
運転は無理のようだ。
仕方がないので自転車を置き、ため息を吐く。
「とりあえず、病院に行ったほうがいいんだよなあ……」
素人判断ではいけない。
関口はコンクールを控えて大切なときだし。
自分が風邪をうつした、なんてことになったら大変だ。
ゆっくり歩けば息切れも軽度だ。
そろそろと時間をかけて星音堂の近所にある『梶川内科病院』へと行った。
蒼のかかりつけ病院だ。
先日、風邪を引いたときも関口に連れてきてもらっていた病院。
受付に顔を出すと、若い女性が苦笑した。
「また風邪ですか?」
覚えられてしまったらしい。
なんだか気恥ずかしかった。
「すみません」
「謝ることはないですよ。どうぞ掛けてお待ちくださいね」
彼女は蒼から診察券と被保険者証を預かり奥に消える。
待合室は、高齢者でごったがえしていた。
先日もそうだったけど、流行っている病院のようだ。
ただのクリニックとも違い、入院施設があるここ。
しかし、総合病院ほど大規模ではないので、比較的待ち時間が少ない。
そのせいか、高齢者にはうってつけの場所なのだろう。
長椅子に並んで座り、嬉しそうに会話しているおばあちゃんたち。
新聞を読んだり、雑誌を見たり、テレビを見て静かにしているおじいちゃんたち。
彼らは、本当に具合が悪いのだろうか?
疑問だ。
なんだか、この時間を楽しんでいるように感じる。
ここの中で、本当に具合が悪そうにしているのは蒼だけだ。
げっそりとして、隅っこの椅子に座り、壁に頭をくっつける。
ひんやりしたその壁は、心地よかった。
その内、診察室から看護師がやってきて蒼に体温計を渡す。
それを受け取り、挟み込んで瞳を閉じているとうつらうつらしてしまったようだ。
誰かに肩を掴まれてはっとすると、先ほどの看護師が目の前にいた。
「熊谷さん。横になりますか?」
「あ、えっと。いえ」
大丈夫です……といいかけたが、側にいたおばあちゃんたちが、心配そうに蒼を見ているのに気が付いた。
「看護婦さん、この人を寝かせてあげたほうがいいよ」
「そうだよ。具合悪そうじゃないか」
「あの……」
おろおろするがおばあちゃんたちの言葉は止まらない。
「あたしらは後回しでいいよ。どうせいつもの薬をもらいに来ただけだし」
「そうそう。こうして嫁の愚痴が話せる時間が長いほうがいいんだから。最後でいいよ」
4人のおばあちゃんは大きく頷く。
ここはサロンか。
思わず苦笑してしまった。
看護師も「ではお言葉に甘えて」と言い、蒼の腕を掴む。
「じゃ先にレントゲンを撮ってから診てもらいましょう」
「はい」
よたよたする身体を支えてもらってやっとの思いで歩き出した。
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