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12 それぞれの覚悟4
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「蒼」
「……っ?」
「おれね。コンクール終わったら。ちゃんとするから」
再びぎゅうっと抱き寄せられる。
「ちゃんと言うから」
関口が。
関口が自分のことを……?
蒼はめまいがした。
この前のキスの意味がやっと分かった。
あのキスが、ただの「不安解消のものだねなんて、こじつけだ。
キスをしている間も、彼は蒼のことを、好きだと言ってくれていたじゃないか。
気づくまいとしていたのは、蒼のほう。
真実から、目をそらそうとしているのは自分だ。
目の前がくらくらした。
自分はどうなのだろう。
関口は意地悪で。
我が侭で。
かなりむかつく。
でも……。
雨に濡れて鍵を一緒に探してくれたり、風邪の時は看病してくれて、病院にまで連れていってくれた。
ご飯だって、ちゃんと作ってくれる。
それに蒼のことをいつも心配してくれているのだ。
この二ヶ月。
自分が一番分かっていたはずだ。
彼がら自分のことを大切に大切に思っていてくれたってこと。
嬉しかったのだ。
関口が、そう思っていてくれているってこと。
彼の気持ちが嬉しい。
そう思う反面、蒼の心の中では低い悪魔の声が囁いている。
『お前はちびで嫌な奴なんだよ?お前の周りにいる奴はみんな不幸になるんだ。だから、誰もお前なんて相手にしないし、心底から友達になりたいなんて奴は一人もいないんだ』
そう。
自分は小さい頃から嫌な奴なのだ。
だから、あんなことが起きて。
家族は、ばらばらになってしまったのだ。
自分のせい。
あれはみんな自分のせいなのだ。
『近づいてくる奴を信用しちゃだめなんだ。みんな、お前を利用したいだけなんだから』
自分と一緒にいると、みんな不幸になってしまうのだ。
関口は?
大丈夫だろうか?
彼も例外ではないと思う。
自分は一人で頑張ってきたのだ。
大丈夫なのだ。
一人でも。
玄関から出て行った彼の後姿を見て身体を起こす。
自分は彼が好きだ。
だけど、自分のせいで彼を不幸にしてはいけないのだ。
潮時なのかも知れない。
関口とは一緒にいられない。
ぼんやりベッドの上に座り込んで思いを巡らせる。
彼と深い付き合いになる前に。
お別れをしたほうがいいのかも知れない。
時計を見ると、昼を回ったところだった。
いつの間にか時間は過ぎていく。
そろそろ出かけないと、関口の出番に間に合わないだろう。
ともかく、約束したから。
彼の演奏だけは聞きに行くって。
だるい身体を起こし、身支度をする。
関口のヴァイオリンが聞きたい。
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