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13 王子様1
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星音堂に出てくるだけで、こんなに大変だとは思わなかった。
自転車は星音堂に置いたままだったから、タクシーを利用しようかと思ったが、いいお天気だったので歩いてみることにしたのだ。
しかし、それは無謀な選択だったらしい。
じりじりと照りつける夏の太陽は、病み上がりの蒼を容赦なく襲った。
やっとの思いで星音堂に到着する頃は、ふらふらになっていた。
壁に手を付き、涼しい入り口に入り込むと、事務室のところに立っていた星野が声をかけてきた。
「蒼じゃね~か」
「星野さん……」
「大丈夫かよ?お前。なんだか半分死んでるんだけど?」
彼は慌てて蒼に手を貸し、側のベンチに座らせた。
「すみません。火曜日から出ますから」
「無理すんな。そんなに焦って出てきても仕方ないだろう?ちゃんと治してからにしろ。また再発なんてなったら、それこそ大変だ」
心配してくれている星野。
ありがたいことだ。
長期で休んで肩身が狭いところだが、そういってもらえると安心した。
彼は蒼がひと段落するのを待って言葉を掛ける。
「関口を見に来たんだろう?」
蒼はビックリした。
どうして星野はコンクールに出ることを知っているのだろう。
「そんな顔するなよ。そういう噂はすぐに耳に入るもんだ。それに、あいつ。音楽教室やろうなんて嘘ばっか言いやがって」
「な。星野さん……?」
「強がりばっかなんだ。あいつは。素直にペーペーの駆け出しプロ志望ですって言えばいいのにさ。本当に、めんどくせぇ男なんだよな」
よく分かっている。
思わず苦笑してしまった。
関口が必死に隠そうとしていることは、星野にとったら意図も簡単に見抜けることなのだ。
ここいら辺が経験の差なのだろうか?
少し笑ったら気持ちも落ち着いた。
「あいつにとったら、今回のコンクールは節目だろう。ちっちゃなコンクールだけど。トラウマを乗り越えられるチャンスだからな」
そういえば。
関口は、自分が超えなければならない壁だと言っていた。
それは、どういう意味なのだろうか?
星野は知っているのか?
「星野さん。関口に一体なにがあったんですか?」
「なんだ。一緒に住んでいて聞いてないのか?」
一緒に住んでいて、と言う言葉は余計である。
しかし、突っ込みをいれる気力もない。
「ええ」
「そっか~。あいつ、カッコつけたいんだろうな。お前には……」
「?」
「あいつの両親は、世界的指揮者の関口圭一郎とプリマドンナの宮代かおりなんだ」
「?」
「かおりさんの旧姓が宮代でね。そっちで売れちゃったから今でもその名前を使ってるみたいなんだけど」
余計な補足である。
しかし、蒼はそんなのはどうでもいい様子だ。
それよりも衝撃的な事実。
関口圭一郎。
宮代かおり。
クラシックを知らない蒼でも聞いたことがあるくらい有名な人物だ。
圭一郎は日本を代表する指揮者の一人で、現在は日本とヨーロッパを中心に活躍している。
よくテレビに出たりするから見たことがあった。
かおりも同様だ。
主にオペラで活躍しているようだが、時々テレビに出て歌っている姿を見る。
彼女にこんな大きな息子がいるなんて思いもよらなかった。
「知らなかった……」
あまりのショックに愕然とした。
星野は面白そうに笑う。
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