アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
13 王子様2
-
「たいていの人間は、お前と同じ反応だな」
「関口ってすごい。サラブレッドなんですね」
「そうそう。クラシック界のプリンスだな」
そんな人と自分は一緒に住んでいるのか。
まったく無知とは恐いものである。
しかし、星野は表情を曇らせた。
「だけど、あいつにとったら親の七光りは、余計なものだったんだ」
「え?」
「小さい頃から、圭一郎とかおりの息子と言うラベルを貼られて、期待されていた。ヴァイオリンが大好きで熱中して、コンクールになんかもたくさん出て、賞を総なめにしていたそうだ。そんなときに出会ったのがピアニストの川越聖一だ」
「川越……?」
聞いたことがある名前だ。
「去年、ここでリサイタルしてただろう?」
「ああ。そっか」
それで聞いたことがあるのか。
「川越は、自分自身がゼロからスタートした男みたいでね。無名の新人を発掘するのが、使命みたいなところがあるんだ。だから関口みたいな、七光り野郎には興味がなし。ある時、コンクールであいつは川越に酷評されたんだ。親の力でここまできた子ども。音楽の表現力は皆無。スキルだけを追求した音楽に対する姿勢は素人以下だ。とかね」
酷い言い草だ。
それを子どもの頃にされたのだとしたら。
心に傷が出来るのも頷ける。
「しかも彼は、演奏自体を聞こうとはしなかったそうだ。後日談ではちゃんと聞いていたらしいんだけど。心無い輩が噂をたてたんだろうな。そんなことはないのに……。彼は彼なりにしっかり関口の音楽を聴いて、そう評価しただけだったんだ。だがそんな事情が分かるわけもなく。関口は、コンクール恐怖症になったんだ」
そうだったのか。
親の知名度が高いほど、自分の実力が本当に評価されているのか疑問になる。
もしかしたら親のおかげ?
自分は、本当はダメなのではないのか?
子ども心にそんな疑念が生まれていたのだろう。
コンクールに出て人に評価されることが恐くなってしまうことが頷けた。
「今回の審査委員に川越が入っているからね。チャンスだろうと思ったんだろうさ。あいつに自分を認めさせたい。そうすれば乗り越えられるってね」
そんな深い事情があったなんて。
育ちのいい、挫折も知らないような男だと思っていたのに。
過酷なコンクールに挑むってことだけで、彼の音楽に対する想いを感じた。
そして更に。
自分に課せられた運命を乗り越えようとしている関口。
言葉を失う。
自分の中で囁いていた悪魔の声なんか聞こえないほどに関口に惹かれた。
自分といたら、不幸にしてしまうかもしれない。
だけど、そんな想いなんかどうでもよくなってしまうほどに、一緒にいたいと言う想いが出てくる。
蒼は気づいていない。
初めて自分の想いを優先させたいと思っていると言うことに。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
74 / 869