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13 王子様3
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「あいつ。そう決めたのは、お前のことがあったからだと思うんだ」
「え?」
星野の言葉にびっくりして、視線を戻す。
彼は、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
関口を見守ってきた彼。
関口の決断は、彼にとっても嬉しいことだったのだろう。
「あいつ……変ったよ。お前と住むようになって。なんだか男らしくなった。昔はヴァイオリンを抱えている腰抜け坊やだったのにさ。しっかり自分の道をみつけやがって」
「……」
「あいつが歩く道にはお前が必要なんだと思う」
「星野さん……」
「しっかり見てやってくれ。蒼。あいつは自分の生まれなんか関係ない世界で生きているお前を見つけたんだ。今まで背負ってきたものなんか、関係ないって思わせてくれるお前に出会ってよかったんだと思うよ」
星野の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
蒼はただじっとしている。
そんな彼の様子がおかしい。
きっと蒼は、蒼なりにいろいろ考えているのだろう。
ずっと心配だった。
関口は死ぬまで親と言う枷に囚われてしまうのではないかと。
しかし、そんな枷は無意味なものだと言うことを蒼が教えてくれるだろう。
彼にはそんなものは関係ないのだから。
音楽を知らない蒼だから、よかったのかも知れない。
同じ世界に生きている人間ならば、意識せずには居られないことだもの。
一人で満足していると、ふと蒼が声を上げる。
「でも。おれは、関口のなんなのかも分からないし」
どうしてあげられるのかも分からない。
「なんなのかだって?それはお前が一番よく分かっているんじゃないのか?もう答えは出ているんだろう?」
『キスしていい?』
関口の言葉が響く。
『明日は蒼が聞きに来てくれるだけで頑張れる』
『コンクール終わったら。ちゃんとするから』
ただのお金持ちの我が侭な奴だと思っていた。
蒼とは全然違う世界の男だと思っていた。
子供なのは自分ではないか。
関口という男の中身まで見ようとしないで。
外見だけで判断してしまって。
自分の都合で逃げようとしているだけなのだ。
ちゃんと向き合わないとダメなのだ。
膝の上に置いた手を握り締めていると、ふとホールのほうが騒がしくなる。
「お。始まるな」
星野は嬉しそうに顔を上げた。
しかし、蒼は緊張してしまう。
大丈夫だろうか?
関口……。
そんな大変なことになっているなんて。
全然知らなかったから。
もっと言葉を掛けてあげればよかった。
自分のことばっかりで嫌になった。
「蒼」
顔色を悪くしている彼の腕を掴まえて星野は連れ出す。
「星野さん」
「さあ~!聴いてやれ!」
とんと軽く背中を押す。
彼はホール入り口の方向に押し出された。
「星野さん……」
「大丈夫だ。お前がよく分かっているだろう?」
「……はい」
そうだ。
関口なら大丈夫。
あんなに一生懸命取り組んできたじゃないか。
音楽のことは分からないけど、彼なら大丈夫だ。
蒼には分かる。
関口の演奏。
しっかり聞かないと。
蒼はふらつく足に力を入れてホールに向かった。
それを見送って星野は苦笑する。
「蒼は本気で考えているぞ。関口。……いい返事があるといいのだけどな」
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