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13 王子様5
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その日。
生まれて初めての挫折は心に大きな傷を残した。
演奏を終えてステージから降りた彼を待っていたのは一人の男だった。
彼は長身で漆黒の髪を無造作に流していた。
白いシャツに黒いスーツ。
全身が真っ黒で、関口の第一印象は死神。
悪魔だと思った。
蒼白な顔。
瞳の光はくすんでいて、生きているのか死んでいるのか分からない印象を覚えた。
彼はこう言った。
『キミのお父さんとお母さんは、よく知っている。確かに素敵な音楽家だね。だけど、キミはそれを利用して楽しいのかい?』
利用して?
そんなつもりは……。
いや。
今になって思えばあったのかも知れない。
どこに行っても『あのマエストロの子ども』とちやほやされた。
気分がよかった、と言ったらその通りだろう。
『キミの演奏は素晴らしかった。技術は、わたしも舌を巻いてしまうほど素晴らしい。だけどね。キミは機械ではないだろう?ただ楽譜と音符を追うだけなら機械にも出来る。キミの演奏に気持ちが感じられないんだ。どうしてだろうね?』
言葉を失った。
初めて突きつけられた言葉だった。
『技術だけなら誰だって得られる。苦労して練習を重ねれば誰でも弾けるんだ。キミはプロの音楽家になる気はないの?このままだとそこいらにいる遊びで弾いている子たち以下だぞ』
彼はそう言った。
ショックを受け、なにを言われているか理解できない関口はただ立ち尽くす。
男は大きな手で関口の頭を撫でた。
『よく考えなさい。そしてちゃんと答えを見つけなさい。それが出来ないなら、ヴァイオリンは捨ててしまいなさい』
光の中に消えていく男。
彼はただ一点を見つめて呆然としていた。
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