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15 過去5
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蒼の調査は、思うようにはかどらなかった。
まず、蒼のプライベートを知っている人が、いなさすぎるのだ。
かろうじて見つけた星野からは、あの程度の情報しか引き出せないし。
これ以上調べるとなると、蒼の実家を直撃するしかない。
しかし、そこまでしていいのかと言う疑問は残る。
ストーカーじゃないのだから。
もんもんとしたまま、時間だけが過ぎていく。
コンクール明けで始まった一週間は、あっという間だ。
毎週金曜日は、東京での練習が待っている。
今日も東京から新幹線で帰宅すると、時間は23時を回っていた。
アパートは、電気がついている。
蒼が起きている証拠だった。
なんだかほっとして、玄関を開ける。
「ただいまー」
しかし、室内は静まり返っていた。
「蒼……?」
電気はついているが、彼の姿が見受けられない。
きょろきょろして中をうかがっていると、側の浴室の扉が勢いよく開いた。
「わわっ!」
「関口!帰ってたんだ!」
ここのアパートは小さい。
脱衣所もなく、玄関とキッチンは、ほぼ一緒。
浴室も扉を開けるとすぐ玄関だ。
蒼は、廊下に置いてあったタオルを取ろうとしていたようだ。
こんな姿を見るのは初めて。
直視は出来ないが、さりげなく濡れている蒼を見る。
彼は、捨て猫みたいに見えた。
雨で濡れて小さくなっている猫みたいな。
「い、今帰ったんだ……」
「そ、そう。お帰り。ってかタオル!」
「ほれ」
お互い赤くなってしまった。
関口も慌ててタオルを渡すと、眼鏡をずり上げる。
「あはは。どうもね」
扉が閉まって蒼が消えるとほっとした。
ため息を吐く。
だけど。
気になるものが視界に入っていた。
あれは。
あの傷はなんだ?
蒼の腕や肩の辺りに傷があった。
あれはなんだ?
一緒に住んでいて、全然分からなかった。
蒼は、傷だらけではないのか?
腑に落ちない。
室内に入ってベッドに腰を下ろしてからも考える。
しばらくじっとしていると、パジャマに着替えた彼が室内に入ってきた。
ほくほく顔である。
「ごめん。今日は遅かったね。入りなよ」
ほっぺは赤くて田舎の子みたいだった。
「蒼」
「なに?」
「いや……」
なんと言ったらよいのか。
関口は、黙ってしまう。
そんな彼の様子なんてお構いなしの蒼は、髪を拭いてさっぱりした表情を浮かべていた。
「今日も暑かったねえ」
「うん……」
腑に落ちない表情で蒼を見詰める。
「ねえ。蒼」
「ん?」
関口は、手を伸ばして蒼を引き寄せた。
「関口?」
なんの前触れもないからビックリだ。
瞬きをして関口を見上げる。
その瞬間、背中に回っていた細い指が、蒼の肌を這い中に侵入してくる。
「ちょ、ちょっと!関口?」
顔を真っ赤にして瞳を閉じる。
くすぐったい感覚に驚いて、思わず彼の腕を掴んだ。
関口は背中をまさぐり、蒼の肌につけられた傷跡を感じる。
やっぱり見間違いなんかじゃなかったのだ。
もう皮膚の一部になってしまっているそれは、古い傷なのだろう。
「蒼……。この傷って……」
彼の胸に顔をうずめていた蒼は、息を吐く。
「……関口にはいずれ言わなきゃって思っていたんだ。おれの家族のこと。母親のこと……」
「蒼……」
「聞いてくれる?」
いつものお日様蒼はいない。
伏せ目がちにおびえている彼。
話をすることすら、はばかられているようだ。
「お前が話したくないんだったら。無理しなくてもいいんだぞ?」
「ううん。関口には知っていてもらいたくて」
蒼は、関口から離れて隣に座った。
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