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15 過去9
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淡々と話す蒼の話は、衝撃的なものだった。
彼に、こんな辛い過去があったなんて、知らなかった。
虐待。
母親に殺されそうになる恐怖。
関口には、想像もできない感情だ。
両手を握り締め、俯いている蒼。
辛かったろう。
こういうことを話すことは、難しいことなのに。
自分には話してくれたのだ。
関口は、蒼を引き寄せて抱きしめる。
「この肩の傷は……」
「常に怪我をさせられていたから、いつのものかなんて分からない。だけど、もしかしたら、最後のときのかも知れない。おれもよく覚えてないんだ。あの頃のことって本当に曖昧で。後から聞いた話で、埋めてはいるんだけど。できるなら思い出したくないって言うか」
「よく話してくれたね」
蒼を抱く手に力を入れる。
「つまんない話でごめん。でも、なんだか関口には知っていてもらいたかった……。変だね。絶対にこのことは、誰にも言わないようにしようって決めていたのに」
今まで、誰にも告白できなかったこと。
言ってしまったら、あまりの暗さにみんな引いてしまうだろう。
今で付き合ってきた友人にも話したことはない。
関口が初めてだ。
軽く震えている蒼。
関口は、彼にかける言葉を捜していた。
だけど、気安く声を掛けれるほど、簡単な問題ではなかった。
彼は、いつもお日様みたいに明るく振舞っているけど。
彼の闇は深くて濃い。
関口は、そう感じていた。
お人よしで周りに気を使うのは、そういう生活から学んだ自己防衛なのかも知れない。
自分が傷付かないように。
いい子になっていた。
人に悪く思われたくない。
優等生でいなくてはいけなかったのだ。
想像以上の過去に驚きはある。
だけど、最初から抱いていた違和感が、当たっていたと言うことにも納得する。
だから、惹かれたのかも知れない。
愛情に飢えている子ども。
星野の読みは的中していると言うことだ。
じっと抱きあったまま、時間は過ぎていく。
蒼は、戸惑っていた。
初めて他人に明かしたこと。
彼は、どんな反応を示すのだろうか?
恐い。
ドン引きされてお別れになったらどうしよう?
それでも彼は、自分のことを好きだと言ってくれるのだろうか?
恐怖でいてもたってもいられない気持ちになった。
自分は、酷い子どもだ。
大好きな母親を、こういうときばっかりは、疎ましく思ってしまう。
彼女さえいなければ。
自分は、こんな目には遭わなかったかもしれないのに。
様々な気持ちが入り混じって混乱していた。
蒼は、黙って関口の言葉を待つしかなかった。
しばらくして、ふと彼の息遣いを感じる。
そして、降ってきた言葉は意外なものだった。
「お見舞い。行っているのか?」
「へ?」
思わず顔を上げる。
「いや。そう考えると蒼の母さんって、一人で病院にいるんだろう?蒼のこと待っているんじゃないかなって思って」
「関口……」
「それに。こんな優しい蒼のお母さんだろ?おれも逢ってみたいんだけど」
関口は笑う。
「関口……」
なにを言い出すんだ?
蒼は、瞳を瞬かせて関口を見つめた。
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