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17 嵐到来5
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「あ!いえ!あの。熊谷蒼です!」
蒼は、ぺこっと頭を下げた。
すると、圭一郎は首を傾げる。
「熊谷……?」
「は、はい。あの……?」
「いや。昔の友人で熊谷って男がいてね。医者なんだが……」
「え!」
蒼は、目を大きくする。
圭一郎は、首を傾げた。
「栄一郎というのだが……。一郎つながりで仲良かった」
「あ……っ」
「?」
「本当の父親ではないんですけど。父です」
「そうかそうか……」
彼は、目を細める。
そして、蒼をじっくり見つめた。
「空さんの……」
「母を知っているんですか?」
「彼女には、一度しか逢ったことが無いんだが……。あいつ、それはそれは好きらしくてね。いつも彼女の話ばっかりだったよ。今は忙しくて連絡は取っていないんだが。空さんの具合はどうかな?」
「……母のこと、知ってらっしゃるんですね」
「栄一郎から聞いたよ」
そっか。
蒼は圭一郎の側に座る。
栄一郎は空のことをこの人に話していたのか。
親近感を覚える。
栄一郎が空のことをどのように思っているのか、蒼は知らない。
興味が湧いた。
「まだ入院していて。先日、関口が付き合ってくれて久しぶりに面会をしたんです」
「ほほう」
二人が話込んでしまって関口は詰まらない。
その間に、かおりは夕食の準備をした。
「なんだか逢うのが恐かったんですけど、母さんも喜んでくれて。本当に良かったです」
「そうか。それは良かった」
自分には、母親の話をするのにあんなに躊躇っていたのに。
圭一郎にはすぐ話すのかと思うと、なんだか妬ける。
面白くなかった。
「栄一郎もさぞ喜ぶだろう。あんなことになって、一番キミのことを気に掛けていたから。あいつはあいつなりに、思うところがあったんだよ」
「父が……?」
「そうだ。落ち込みようは酷いものだった」
そうだったんだ……。
蒼は、知らなかった。
父親なんて大嫌いだった。
母をあんなにしてしまったのだ。
「父が……」
「キミは、お父さんのことを嫌いかも知れないけどね。彼のことを、そろそろ許してあげてくれないかな?」
「……」
「ま、おれが口を出すことではないんだけどね」
苦笑している圭一郎を見つめて、蒼は戸惑う。
急に言われても困ってしまうことだからだ。
迷いを見せる蒼を見兼ねて、かおりが声を上げる。
「さ。ごはんを食べましょう?ね」
彼女は、そっと蒼の肩に手を当てる。
まるで自分の気持ちを見透かされてしまっているようだ。
暖かい手のひらがほっとした。
「蒼」
心配そうにしている関口と視線が合い、蒼は顔を横に振る。
「大丈夫。ご飯頂こう」
「よし。これは最高なんだ。圭も大好物でね」
「そうなんだ。じゃあ、おれ教わっておいたほうがいいのかな?」
側にいた関口は、吹き出す。
そして、圭一郎とかおりも苦笑いだ。
「え?」
なにか悪いことでも言っただろうか?
瞬きをして蒼は三人を見る。
「蒼、そういうのは、新妻さんの台詞なんだけど?」
圭一郎の突っ込みに顔が赤くなる。
「そ、そういうつもりじゃ……。すみません!ただ、関口が好きなものなら、いつでも食べさせてあげられたらいいのかなって思って……」
しどろもどろの蒼。
かおりは優しく微笑む。
「優しいのね。蒼ちゃんは。そうね。簡単だからメモを置いていくわね」
「あ、ありがとうございます」
後味が悪い。
蒼は、しょんぼりしてかおりの作ったビーフシチューに手を出した。
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