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19 鎖1
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お前はちびで嫌な奴なんだよ?
お前の周りにいる奴はみんな不幸になるんだ。
だから、誰もお前なんて相手にしないし、心底から友達になりたいなんて奴は一人もいないんだ。
……だけど。
おれは違うよ。
お前のことだけを考えている。
おれだけはお前の味方だ。
お前のこと、大切に思っているんだから。
母親に殺されかけ、自分はいらない人間なんだと思っていた。
悪い子。
大好きな母親にまで嫌われてしまった。
もう自分の居場所なんかないと思っていた。
だけど、彼が話してくれたその言葉は傷付いた蒼の心を癒してくれる。
こんな自分でも必要だと言ってくれる。
大切だって。
味方だって言ってくれた。
そう。
彼の言葉を生きる糧に自分は生きてきた。
しかし、いつの頃からだろうか?
外の世界を知った自分にはそれが枷となって重く足を引っ張った。
籠から逃げ出した鳥は自由を知ったのだ。
新しい世界で自由に生きたい。
そう願っていてもつながれた鎖は重く、そして容易には外れるものではなかった。
彼は静かに白い建物を見上げていた。
屋上付近にはブルーの文字で建物の名称が打ち付けてある。
『熊谷病院』
この場所に戻ってくるのは久しぶりだった。
いつぶりだろう?
高校を卒業して、大学に進学してからはほとんど戻ってこなかった。
唯一の肉親である母親もいない。
戸籍上の家族はいても、自分の血縁者は存在していない場所。
おかしなことだ。
ここに住んでいる人たちは本当の家族と呼べるものなのだろうか?
ただ家族ごっこをしていたに過ぎないのではないか?
先日、久しぶりに感じた父親への気持ちを思い出し、首を横に振る。
なにを考えているのだろうか。
ここは自分の帰るべき場所ではないか。
熊谷栄一郎は自分の父親ではないか。
おかしい。
こめかみに手を当て、瞳を閉じる。
ここに来るとおかしくなる。
そんなに憎しみがあるわけではなにのに。
この場所に来ただけで、吐き気がして、負の感情が増長される気がした。
早く用事を済ませて帰ろう。
こんなところにいたらおかしくなってしまう。
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