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19 鎖3
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自宅内は、あの頃となんら変りはなかった。
空もいないので、相変わらずの男所帯。
家事に疎いせいで家政婦が出入りしているのは、昔のままだった。
蒼は荷物を持ったまま階段を上がる。
屋敷みたいなそこは、広いばかりでなにかが欠けているような気がした。
2階に上がり、一番奥の部屋に歩み寄る。
ここは。
蒼の部屋。
大学に入学したのと同時に、封印されてしまった部屋。
鍵を開けて中に入るとそこは、出て行ったときと同じ風景が広がっていた。
少し埃っぽい。
定期的に掃除をしてもらっているのだろう。
思ったほど汚れはなかった。
そっと、窓から外を眺める。
見える景色も、なにも変らない。
ただちょっと木々が生長しているだけの話だ。
側のベッドに腰を下ろすと、黄色いくまのぬいぐるみがいた。
「これ……」
大学に進学した時は、まさか、こんなにここに帰ってこないなんて思わなかったから。
この子は置いてきぼり。
さすがに大学生にもなる男が、ぬいぐるみと一緒に引っ越すには憚られたからだ。
あれから一度もここに帰ってきていないせいで、随分久しい気がした。
蒼の友達第一号だ。
「きまちゃん」
母親の話だと、父親だった人が蒼が生まれたときに買ってきてくれたと言う。
つまり、この子は蒼がこの世に生まれたときから側にいてくれる子なのだ。
忘れていたわけではない。
ただ、探しに来ることができなくて。
昔は鮮やかな黄色だったのに、薄汚れて黒くなっていた。
蒼が生まれた当時は、こういうひらべったいぬいぐるみが流行っていた。
頭に紐がついていて、壁にかけておけるようになっている。
昔は緑色のポシェットがトレードマークだったけど、もうそれはなくなってしまっていた。
顔の縫い目からはわたぼこが飛び出している。
なんだか笑ってしまった。
裏返してみると、お尻のあたりが黒焦げている。
これは小さい頃、きまちゃんも寒いと思って、ストーブに当てたときに焦げてしまったものだった。
あの時は火事にならなくてよかった。
まだ二人でいた頃だったから空は優しく蒼に言い聞かせてくれたのを覚えている。
『蒼だってストーブに直接触ったら熱いでしょう?きまちゃんもそう。ほら、お尻がこんなに黒くなっちゃったでしょう?痛い痛いしちゃだめよ?』
ふとお日様みたいな空の顔が脳裏に浮かんだ。
連れて帰ろう。
この子。
もう離れないように。
ぎゅっと抱き締めてぼんやりしていると、入り口から物音がした。
ゆっくり顔を上げる。
「来てたんだ」
開け放たれたドア。
啓介は意地悪な笑みを浮かべて蒼を見下ろしていた。
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