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「おれは、ここに住んでいないから、なにも言える立場ではないけど。でも。みんなが母さんが帰ってくることに賛成してくれているんだったら……そうしてもらえるのなら、嬉しい」
蒼の言葉に、栄一郎は満足そうに微笑む。
「ほら。みんな賛成だって。ね?空?」
しかし、彼女は決めかねていた。
自信がないのだ。
そんな彼女の様子に気が付いた栄一郎は、両手で彼女の手を取り上げた。
「空。私たちも年だ。蒼までこんなに大人になってしまったんだよ?私は君との空白の時間をこれからの人生で埋めていきたいんだ」
「あなた……」
空は弾かれたように顔を上げ、栄一郎を見つめる。
それは彼女も望んでいることだ。
「決まりだね」
啓介の言葉に陽介も頷く。
「じゃあ。蒼が一人暮らしする意味無いんじゃないの?」
「……え?」
「母さんが帰ってくるんだ。蒼にとっても空白の時間はあるだろう?一緒に住んで、埋めていくのが親孝行じゃないのかなあ」
それはそうだ。
栄一郎にとっての空白の十数年間は、蒼にとっても同様の事だ。
だけど、この熊谷の家に戻るなんて考えられないことだった。
この家にはいたくない。
いくら空がいたとしても。
それに、今の自分には関口がいるのだ。
彼と一緒にいることが、蒼の望みだ。
まごついてしまった蒼を見て、その気持ちを察したのは栄一郎だった。
「蒼。君は無理しなくていいんだよ?空が家に帰ってくれば気軽に逢えるし。泊まっていったっていいんだし。君には君の生活スタイルが出来てしまっているからね。いまさら、変えようったって無理な話だよね」
「父さん!せっかく家族が揃うのに」
栄一郎の言葉に陽介は反論した。
「陽介。いつまでも一緒ではいられないんだから。お前だって啓介だっていいんだよ?自分の選んだ道を行けばいいんだ。この家にしがみついていることはない」
「父さん……」
「おれはさっさと出て行くよ。大学が終わったらね」
啓介はふいっと視線を外した。
手を握り締めて思いつめた顔をしている陽介。
蒼には、彼の気持ちは分からない。
ただ、長男としてこの家を背負っていかなければならないと言うプレッシャーがあるのだろうか?
言葉を失っている蒼に空は優しく語りかけた。
「私は、たまに逢いに来てもらえるだけで嬉しいわ。この前も言ったけど、自分の幸せを信じて。きちんと決断なさい」
「……」
関口と一緒に暮らさなくとも良いのかもしれない。
だけど離れてしまうのはいけない気がした。
自分にとって彼は必要なのだ。
そして、もしかしたら関口も自分を必要としてくれているのではないか。
そう思っているからだ。
「……まだ、ここに帰ろうとは思わない。でも、母さんには逢いに来る」
蒼はしっかりと栄一郎を見る。
「蒼!」
陽介はなぜ?と声を上げていた。
「ま。蒼が決めたことだ。そうしなさい」
栄一郎は笑う。
「父さん」
「頑張るんだよ。蒼」
「はい。ありがとうございます」
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