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19 鎖10
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「蒼。お前は悪くない。お前はいい子だ。分かるか?お前がみんなに嫌われてしまうような理由なんて、なに一つないんだ。お前と関わって、不幸になる奴なんてどこにもいないんだ。陽介なんかが味方になんなくても、恋人がいるんだろ?お前を信じてくれている。だから惑わされるな。こんなやつの鎖なんかさっさと断ち切れよ」
「お、おれ……」
啓介の言葉は蒼の胸の奥に響く。
おれはいい子?
みんなに嫌われる理由はない?
不幸になる人なんていない?
じゃあ、関口は?
関口は、自分のことを信じてくれている。
蒼の過去を知ってもなお、一緒にいてくれるのだ。
悪い子だった証拠の古傷だって優しく撫でてくれる。
好きだと言ってくれる。
愛してるって言ってくれる。
身体中で愛してるって。
自分の肩を抱いて蒼は放心状態だった。
啓介は、ため息を吐いて蒼を立たせる。
「蒼。おいで。送ってくから」
「お、おれ……分からない。なんの話……?」
彼はきまちゃんを抱えたまま、一目散に玄関から飛び出した。
「蒼!」
後ろから啓介と陽介が追いかけてくる気配がしたけど、振り返らない。
もう、この家にいるだけで気がふれてしまいそうだった。
陽介は今までふざけていたのか?
自分に味方をするふりをして、傷ついているのを見て楽しんでいたのか?
陽介が優しくしてくれたのは、蒼のためなんかじゃなかった。
今まで信じて、自分を支えていてくれたものが壊れ落ちる。
「苦しい……っ」
だけど止まることは出来ない。
喉が焼けるように痛んだけど、蒼はそのまま振り向くことなく走り続ける。
息ができなくて、視界がぼやけた。
無我夢中で、胸が苦しかった。
頭がおかしくなってしまいそうだった。
アパートへの道もぐるぐるしてよく覚えていない。
どうやってここまで帰ってきたのだろう?
ぼんやりと見上げると、そこには見慣れたアパートがあった。
駐車場には関口の車が停めてある。
彼が在宅している証拠だ。
きまちゃんとしばらくアパートを見つめ、それからふらつく足取りで階段を上る。
一生懸命に走ったせいで何度も転倒した。
転ぶなんてこと、滅多にないことだから、なれていないせいか、あちこち擦りむいたりして血が滲んでいた。
だけど、痛みは感じない。
こんな身体の痛みよりも心のほうがずきずき痛んだ。
玄関を開けると、中から明るい関口の声が響いた。
「蒼~?帰ったの?遅かったね」
彼の声を聞くと安心する。
ふっと気持ちが折れる。
下駄箱に手をついたが支えきれない。
蒼はそのままそこに崩れ落ちた。
「蒼!?」
鈍い音に慌てて彼は出てくる。
玄関で気を失いうなされている蒼。
一体、彼になにがあったのだろうか?
「おい!蒼!しっかりしろ!」
関口はいつまでも蒼の名前を呼び続けた。
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