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20 突きつけられたもの1
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朦朧と暗闇をさまよっていた。
ここはどこなのだろうか?
きまちゃんに手を引かれて、真っ暗な闇の中を歩く。
きまちゃんは、蒼と同じ大きさだった。
大きくなったのか?
違う。
自分が小さくなったのだ。
ふと見ると保育所の頃、お気に入りだった服を着ている。
自分は子どもに戻っていた。
『どこに行くの?』
蒼は、きまちゃんに訊ねる。
しかし、きまちゃんはなにも語らずに、ただひたすら前を向いて歩いていた。
『きまちゃん……』
おろおろしながら周囲に気を配っていると、蒼はなにかにつまずいて転倒した。
『ひゃ!』
きまちゃんと手が離れた。
『待って!』
蒼が転んだにも関わらず、彼はどんどん前に歩いて行ってしまう。
『待ってよ!きまちゃん!!』
手を伸ばすと、彼は振り返った。
その顔はぬいぐるみだから無表情だけど、なんだかひどく冷たい感じがした。
『もう蒼に、ボクは必要ないでしょう?』
『え?』
『陽介兄ちゃんと逢ってから、蒼はちっともボクと遊んでくれなくなった』
『そんなことないよ!一緒に遊んだじゃない。陽介と、三人で……!』
『でも置いていった。大学に行くとき』
それは……。
だって。
恥ずかしかったんだもの。
もう大学生になるのに、きまちゃんを連れて歩くのは。
『蒼はひどい人だよ。友達を見捨てるんだから』
『見捨ててなんて……っ!』
『見捨てたじゃないか!』
きまちゃんの言葉はひどく胸に突き刺さる。
『ボク見損なったよ。蒼のこと。ボクがいた頃はボクに頼って。今度は陽介。そして関口。どうして一人で立ってられないのかな?キミは、陽介が悪いって思ってるかも知れないけど、キミも悪いんだからね。すっかり陽介に頼り切っていたじゃないか』
そう言われると困る。
図星だからだ。
なんだか悲しくて涙が溢れた。
『ふえ……っ』
『泣き虫蒼。ちっとも昔と変っていないじゃないか。そんなんじゃ、関口にも嫌われちゃうんだからね』
『ごめんなさい……』
『謝れば済む問題じゃないよ』
『ごめんなさい……っ』
地面に転がったまま、何度も謝罪の言葉を呟く。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
もうしません。
ごめんなさい。
きまちゃんの手を掴もうとして、必死に手を伸ばす。
すると暖かい物に包まれた。
「ごめんなさい……」
ふと瞳を開けると、目の前には心配そうにしている関口がいた。
「関口……」
「蒼。大丈夫?」
静かに語りかけてくる関口。
ここは。
自分の部屋だった。
どうやって帰ってきたのか覚えていない。
周囲を見渡すと、隣にきまちゃんも寝ていた。
彼は相変わらずの無表情。
だけど、夢のような顔ではない。
優しく蒼を見ている。
「ごめん。おれ」
「ビックリしたよ。帰ってきたと思ったら、倒れてるんだもん。傷だらけだし。動かすのも心配だったから、医者に往診してもらったよ」
「え?」
ほっぺたのガーゼに気が付いて身体を起こす。
そうだ。
自分は……。
悲しいとか、そういう風に感じたわけじゃないのに。
突然、涙が溢れる。
「蒼……」
「おかしいな。なんだ。これ?」
「蒼……」
拭っても拭っても流れてくる涙。
関口は悲痛な表情で、蒼を抱き締めた。
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