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20 突きつけられたもの8
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だけど、今考えるとそれは納得できるものだった。
彼は母親と二人きりの生活をしていて、夜間保育所に預けられていた。
恵まれた生活ではなかったのだ。
熊谷家に少しずつ馴染んだ蒼は話すことも達者になり、明るい笑顔を振りまく子になった。
心の優しい子で、陽介と啓介が喧嘩をしていると仲直りをさせようと奮闘したり、啓介がイタズラをして怒られたときも、かばってあげていた。
彼は自分を犠牲にして、人を助けようとする子だったのだ。
身体も弱くて、貧弱で、お人よしの子。
陽介は心配になった。
彼はこの先、皆に利用されてしまうのではないか?
お人よしだから。
こんな優しい子なのに、そんなことはさせたくない。
なんとか助けてあげないと。
空にあんなに叩かれたって「大丈夫」って笑っているのだ。
心配だった。
陽介はそう思っていた。
それで。
ただそれだけの思いから出てしまった言葉。
『蒼。お前は嫌なやつなんだよ』
その言葉が、こんなにも尾を引くことになるなんて。
あの頃の自分には、考えもしないことだったろう。
ただ彼を守りたかっただけ。
周囲から危害が加わらないように。
蒼を籠にしまっておきたかったのだ。
「……」
だけど飛び出してしまった彼はもう帰ってはこない。
自分を置いて……。
「蒼」
蒼を守らなくちゃいけないという気持ちが、本当は好きだってことに気が付いたのは、いつの頃だったろうか?
去ってしまった蒼を追いかける自分は、惨めだと思う。
だけど、どうしようもない。
こんな自分のプライドなんてどうでもいいくらい、蒼が愛おしい。
彼が戻ってきてくれるのだったら、土下座をしたっていいと思う。
「は~。参ったなあ……」
どうしたらいいのか分からないのだ。
気持ちを持て余してしまう。
ひどい仕打ちをしてしまったことを謝罪したい気持ち。
それは逆に彼への恋慕を募らせた。
葛藤に苛まれ、陽介はただ頭を抱えるしかなかったのだった。
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