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21 兄弟3
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今、考えてみれば、啓介のほうが陽介よりも根は優しいのかも知れない。
蒼は陽介の上辺に騙されてしまっていたのだ。
要領も悪くて不器用な自分。
どうしたらいいのか分からない。
だけど、このままではいけないと思うのだ。
星野が言っていた。
この世で出会えたことは奇跡だと。
この二人と兄弟になったことも、奇跡なんだと思う。
だから、こんな気まずいままではいけない気がしたのだ。
またあの頃みたいに、みんなで仲良くすることは出来ないのだろうか?
「どうしたらいいんだろう……」
蒼は、ぽつんと呟く。
それは啓介も同じ思いなのだろう。
だから、彼はこうして蒼に逢いにきた。
どうでもいいなら放置しても構わない問題である。
啓介は直接関わっていないのだから。
「難しいよな。人間って。陽介の場合は出会いから歪んでんだ。戻しようはないだろう」
それはそうだ。
時間を戻すことは不可能。
蒼だって知っている。
あの頃みたいに……。
それは望みだけど、あの頃とまるっきり同じって訳にはいかないのだ。
だけどなんとか。
なんとかしないと。
本当にあの家に帰れなくなってしまう。
家に帰れない?
蒼は不思議な感覚に囚われた。
あんなに嫌がっていたではないか。
あの家に帰ることを。
なにを今更……。
帰れないと決まったとたん、懐かしくなってしまうなんて……。
自分は何も知らずにあの家で生活していた。
陽介の気持ちも。
父親の気持ちも。
母親の気持ちも。
啓介の気持ちも。
なにも知らないで、逃げてばっかりいたくせに家を飛び出した。
家が嫌いだなんて、一体、何様の気をしているのだろうか。
嫌だなんていっておいて、結局、思い出すのは三人で仲良く遊んでいた楽しい記憶ばかりだった。
「蒼」
「啓介。おれ。考えてみる」
「蒼……。お前」
「きちんとする。このままで終わりたくないんだ」
「……そうだな」
関口のためにも。
自分のためにも。
啓介や陽介、家族のためにも。
蒼は、まっすぐに前を向いて啓介を見つめる。
さっきまでのぼんやりした蒼ではない。
なにかを決めた彼の表情はきりっとしていた。
啓介は目を見張った。
こんな蒼は見たことがない。
いつも誰かの後をくっついて歩いた泣き虫蒼。
少し苛めただけで泣いてしまう彼とはもう違うのだ。
目の前にいる蒼はちゃんとした男だった。
「……お前、変わったな」
「変わらないよ。おれは」
「蒼……」
冷めてしまったコーヒーを見つめて、啓介は俯く。
蒼は変わった。
自分は?
自分も変らなきゃ。
前に進まないといけないのだ。
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