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21 兄弟6
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蒼は、せっせと自転車を飛ばしていた。
行き先は熊谷病院。
きちんとすると決めたのだ。
病院に着いたのは七時ちょっと前だった。
もう診療は終わってしまっている。
自転車を止めて、中に入った。
今日は実家に帰ってきたわけではないので、正面から入った。
「すみません。本日の診療は終了いたしました……」
受付の女性が言う。
蒼はめっきり寄り付かなくなっていたので、顔なんて覚えてもいないのだろう。
院長の息子だとは露ほど思っていない様子だ。
薄暗い待合室は、なんだか寂しく感じられた。
「あの。熊谷陽介先生は外来担当日ですか?」
「ええ。でも今日はもう終了してしまいましたので……。あ、急患ですか?どうなさいましたか?」
蒼があまりにもしつこいので、よっぽど具合が悪いのかと受け取ったらしい。
女性は眉間に皺を寄せて蒼を見る。
「あ!はい!急患です!」
蒼も思わずでまかせを言ってしまった。
「それは大変です!座ってお待ちください」
女性は慌てて受付から出て蒼の元にやってくる。
「え?え?」
そんなに具合が悪いわけでもないから、おろおろしてしまうが、焦っているせいか顔色が悪く見えるのだろう。
彼女は蒼を椅子に座らせる。
「すぐ先生に取り次いできますから!まずお熱を測っていてくださいね」
あまり見たことのない若い女性だった。
だけど、親切だし丁寧だ。
実家ながら少し嬉しい。
具合が悪いときは、こういう優しさとか、迅速に対応してくれる姿勢とかが重要だ。
イライラせずに待てる。
彼女は急いで、しかし、そんなにばたばたともせずに奥に入っていく。
そして、少しも経たないうちに「どうぞ」と声を掛けられた。
蒼は苦笑して、第一診察室に入った。
中では初めて見る陽介の白衣姿。
彼は机に向かってパソコンを見ているので顔はよく見えなかった。
「どうしました?どうぞお掛けください」
優しい声で、いつまでも突っ立っている蒼に声をかける。
そして、彼は聴診器を持ちながら振り返った。
こうしてみると栄一郎に似ているのかも知れない。
なんだか、弟としてこういう兄の姿は誇らしく感じられた。
「蒼!?」
彼は薄暗い診察室に蒼を見つけてビックリした顔をしていた。
その表情がおかしい。
「ごめん。嘘つくつもりはなかったんだけど。受付の人が勘違いしちゃったみたいで」
「どうしたんだよ……?」
彼は、ぽかんとしてぼんやり突っ立っていた。
「あのね。陽介と話がしたくって……」
蒼は患者が座る椅子に座る。
「まあ。陽介も座りなよ」
「……」
今度は陽介が警戒する番だ。
蒼の行動が信じられなくて、細い目を大きくしている。
「話って……?」
「あのね。この前のことなんだけど……」
「蒼!」
陽介は蒼の声を遮る。
「もう言い訳はしない。啓介の言っていたことは全部本当のことだから。おれは、お前のことを兄弟として見れないし、好きだ。このことをお前に打ち明けたことだって後悔はしていない……」
突然の来訪に動揺しているのか?
彼は狼狽していた。
こんな陽介は見たことがない。
蒼は逆に冷静になっている自分がおかしく感じられた。
「陽介」
「な、なんだ」
蒼は、まっすぐに陽介を見つめる。
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