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20 不穏な出会い5
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『おお。着物だな』
『着物?』
彼は詳しいのか、ショルティに説明をしながら写真を指差す。
『このグリーンの服のことだ。日本の伝統的な服装らしい。今では、特別なときにしか着ないそうだ』
もう一度写真を見詰める。
『服のあわせが逆ですね』
『細かいな。しかし、その観察力がいつもいい結果をもたらしてくれているようだがね』
写真の男。
微笑んでいる。
漆黒の瞳。
『着物……。先生、詳しいですね』
ガブリエルは側の椅子に座って笑う。
『わたしも日本のことは良く分からなかったよ。でも、あの男に教えてもらってね。興味がわいた。いつか、日本の人と競演をしてみたいと若い頃は思っていたからね』
『だから先生は日本と聞くと飛びついちゃうんだ。忙しくてスケジュールなんて無茶でも……』
『まあねえ。しかし、日本の音楽は面白いよ。やはりドイツと似ているかな?』
『先生、あの男っていうのは……?』
『そう。あいつ』
ガブリエルは苦笑する。
そんな彼は楽しそうだ。
彼の元で修行をして10年。
10代のころから頑張ってきた。
人当たりのよさそうなマエストロ。
しかし、音楽に対する情熱は半端ではない。
厳しい毎日だった。
闇雲に進んできた日々だったけど、最近はやっと認められるようになり、リハーサルの指揮を執らせてもらえるようになった。
任されたのだから責任を持ってやりたい。
ショルティはいつもそう考えていた。
『君と同じくらいの子だ』
『え?』
どうみても子どもだと思っていたからビックリした。
『先生?』
目をまん丸にしているシュルティが可愛いのか、ガブリエルは更に目を細めて笑顔になる。
『日本人は若く見えるんだ。25、6歳じゃないか?』
『ええ?』
自分と同じ……?
こんなに幼いのに?
なんだか不思議に思う。
同じ年でもどうしてこんなに違うのだろう。
なんだかとても興味がわいてきた。
『後ろになんか書いてある』
ガブリエルに指摘されて裏を見てみる。
『日本語……?』
『その子の名前じゃないか?読めんがね』
『先生。これ預かってもいいですか?』
『いいが。返さないとだめだよ?』
『それは返します。でもこの字とか興味あるし……。調べてみようかと』
『ショルの癖が出たね。……明日返せばいいだろう。ここは第一ヴァイオリンの席だ。誰かに聞けば持ち主は見付かるだろう』
さあ、帰ろうとショルティはガブリエルに促されてステージを降りた。
明日、戦場になるであろうステージは静寂に包まれていた。
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