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22 不穏な出会い8
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そして、蒼のことを考える。
もう少しで逢える。
蒼は大丈夫だろうか。
大切なときに傍にいられないなんて、なんてもどかしいんだろう……。
そして、あの男。
ショルティ。
年だって大して違わないのに、彼に指示されると今まで自分でも聞いたことがない音が引き出された。
天才。
なのだろう。
指揮者ひとつで変わるんだ。
そのショルティの師であるガブリエルの指揮はどんなものなのだろうか。
圭一郎と仲がいいみたいだけど。
どれほどの腕なのだろうか?
CDは聞いたことがあるけど、実際に指揮をとってもらうのは始めて。
楽しみだった。
どんなことになるんだろう……。
しかし、リハーサルをすべて弟子に任せて、自分は本番だけって、平気なのだろうか?
さまざまなことが脳裏をよぎった。
ぐるぐる考えながら弾き進めていくと、下手から足音がして弓を動かすのを止めた。
視線を向けると、そこにはショルティが拍手をしながら立っていた。
『ブラボー!』
げ!
聞かれていたなんて!
『君は随分、悲しい音を出すね。少々意識が散漫してるみたいだけど』
ばれてる……。
『な、何か……?』
『いや、切ない音に思わず引き寄せられてね』
ショルティは関口を上から下まで眺める。
『あ!そうそう。君、昨日もあの席に座っていた?』
『え?ええ……』
なんだろう?
びくびくして返答をすると、ショルティは笑顔になる。
『これ』
彼が出したのは蒼の写真であった。
『あ!』
関口はビックリして写真を受け取る。
なんだか嬉しくて心臓が飛び出しそうだった。
なくしたと思っていたのに。
蒼は戻ってきてくれた。
『こ、これ!どこで?』
『君が座っていた椅子のところに落ちていたよ』
『よかった!』
関口の喜びようにショルティは笑う。
『大切な写真だったようだね』
御礼をいい、ショルティを見る。
こうして笑顔を見せている彼は普通の青年だ。
関口とは大して代わりの無い……。
『感謝します!』
『じゃあ、一つ教えてもらえる?』
『え?』
『その写真の裏に書いてある漢字はなんて書いてあるんだ?』
関口は裏を見る。
裏には蒼の名前が書いてあった。
この字は星野のものだ。
星音堂からもらったものだから。
『あ・お』
『あお?』
『これはこの人の名前なんだ。日本の意味では深い深い青色を示す言葉』
『深い青……』
ショルティが呟くのも構わず、関口はぺこっと頭を下げた。
『本当にありがとう!』
有頂天の関口。
あまりの喜びように苦笑しつつ、彼は一人の日本人を思い出していた。
『君、名前は?』
その場を立ち去りかけたショルティは関口に振り返る。
『圭。関口圭』
にっこり笑う関口にショルティは笑いをこらえた。
『そうか。圭ね。圭!本番に期待してるよ!』
右手を軽く上げて、廊下に出たショルティは爆笑する。
『関口って……!あははは……!あの男の息子か!?』
一人でうけているショルティ。
なんだか雰囲気も似ていると思った。
そういえば自分と同じくらいの息子がヴァイオリンをやっていると話してくれていたことを思い出す。
『どうした?ショル?』
控え室から顔を出したガブリエルはショルを見て首を傾げた。
『先生!関口の息子がいますよ』
『?』
『あの写真の持ち主は彼でした』
ガブリエルは微笑む。
『そうか。圭一郎の……。まったくあいつには驚かされてばっかりだが』
『そっくりです。あの後ろの文字は「蒼」深い青い色のことを示すそうです』
『……いい名だ』
ガブリエルは優しく微笑む。
『今回は圭一郎も聞きに来るといっていた。恥ずかしくない演奏にせねばな』
『はい』
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