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23 すれ違い6
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練習後。
片付けでごったがえしている練習室に関口の声が響く。
「みなさん。コンマスなのに休んでばかりで申し訳ありませんでした。これ、少しばかりなんですけど、お土産なので食べてください」
関口はおずおずとお土産を出した。
結局、どう頑張ってもチョコレートは消費できないと悟った蒼と関口は苦肉の策として、市民オーケストラの皆さんにも配ることにしたのだ。
コンサートマスターという立場ながら、休みがちなのは事実である。
入団して半年になるというのに、馴染んでいないのが正直なところだ。
「うっそ~!いいの~?」
チョコレートと聞いて喜ばない女性はいない。
案の定、女性たちは集まってきた。
それにつられて男性陣も。
「おまえ、気が利くな~」
「なんだかすかしたやつだと思っていたのに……。いいやつじゃん!」
「あ、どうも」
「関口くんって本当にいい子ね~」
おばちゃんたちには大好評だ。
こんなメリットが得られるなんて考えもしなかった。
「そうそう。お前は忙しいと思っていたんだが。土曜に飲み会するんだ。一緒に行こうぜ!」
「あ。はい」
関口は頷く。
そういえば、このメンバーで飲み会をするのは歓迎会以来かもしれない。
楽器を片付けながら一同はチョコレートを楽しんでいる。
ほっとした。
コンマスとしてもっと団員の信頼を得なければならない。
やるからにはしっかりこなさないと。
ちょっとした出来事で、改めて考えさせられた。
お土産を持ってきてよかったと思った。
「関口くん?」
ヴァイオリンをケースにしまっていると後ろから若い女に声を掛けられた。
「?」
振り向き、女性を見つめる。
どこかで見たことのある……。
「安岐……!?」
関口は衝撃で動きが止まってしまった。
「やっぱり!関口くんだ!」
茶色のボブヘアーがよく似合う、色白の女性は確かに見覚えがあった。
彼女は矢沢安岐。
「ビックリした……。こんなところでなにしてんだ?」
「あたし、高校の頃からヴィオラをやっていたの。最近は仕事も慣れて忙しくなくなったからもう一度やりたいなと思って……。まさか、関口くんがコンマスしているなんて思ってもみなかったよ。だって東京に行ったんじゃなかったの?」
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