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23 すれ違い7
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「うん。実家は東京のままなんだけど。今はこっちでヴァイオリンを教えたりしててね。こっちに住んでいるんだ」
「そうだったの~?」
彼女は嬉しそうに笑う。
「なんだ~。そうなら連絡くれればよかったのに……。あたし、関口くんに会いたいな~って思ってたんだよ?」
関口はどきっとしてしまう。
彼女と最後に会ったのはいつだったろうか?
中学?
その辺りだ。
それから年月が経って彼女は大人の女性になっていた。
「ご飯でも食べに行かない?いろいろ話したいこともあるの」
「え?」
どうしよう。
「だめ?」
上目遣いでみられてしまうと……。
関口だって一応男だ。
こんなかわいい仕草をされてしまったら弱い。
「うん……。あまり遅くならなければ平気だけど」
「誰か待っている人がいるの?」
関口の言い方に引っかかったのか。
彼女は首を傾げる。
「あ!いや……」
弱った。
蒼のことを素直に言うわけにもいかないし。
言葉を濁してしまう。
彼女とは中学の頃に付き合っていた。
別れた理由は関口が転校すると言うこと。
別に、お互いが嫌いになってとかそういうものではない。
中学生で遠距離は無理だと悟った上での、仕方のない別れだったのだ。
そういう中途半端な経過のせいか、なんだかよそよそしくなってしまう。
なんだか彼女の誘いを断れない自分が不甲斐なく感じられた。
戸惑って沈黙していると、氏家が顔を出した。
「お~い!さっさと出てくださいよ~!」
もう室内に残っているのは関口たちと数名である。
「すみません」
関口が慌てて楽器ケースを持ち上げる。
安岐は関口の腕を取った。
「ッ!?」
「行こうっ!お腹空いちゃった~」
ますます参った……。
今日はよりにもよって蒼は遅番で残っているはずである。
氏家が見回りをしていると言うことは、彼は事務室にいるに違いない。
「あ。こっちから出よう!」
関口はとっさに、直接外に繋がっている扉から外に出ることにした。
「こっちからも出られるんだ~」
「うん」
蒼には悪いと思う。
しかし……。
ともかく、きちんと安岐には恋人がいるってことを話せば問題はないだろう。
「……」
自分の隣を嬉しそうに歩く安岐。
彼女の横顔を見て、関口はため息が出た。
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