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23 すれ違い20
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「でも。確かにいいかも知れないですよ?去年は着物着たとはいえ、ステージに上がるなんてこと、よくできたなって今でも思ってますもん。やっぱり、我々は影で支える役目のほうが性に合っています。だったら着ぐるみで顔を隠してしまったほうが、羞恥心が薄れてはじけられるかも……」
高田は尾形の意見に納得した。
「確かに。顔が出ないのはメリットですよね」
吉田も頷く。
「愛くるしい姿で星音堂のイメージアップか?」
星野も苦笑した。
「劇をやっても恥ずかしくはないと言うことか……」
反対意見っぽかった氏家まで唸って考えている。
いつの間にか、着ぐるみ意見は賛成の動きだ。
しかし、蒼にはどうでもいいことだ。
机に手を置いて、下を向いてゆっくり呼吸を繰り返す。
早く調子を戻さなくちゃと思うと焦ってしまう。
はやる気持ちを抑えてゆっくり呼吸をするのだ。
「蒼?」
「はいッ!?」
びっくりして顔を上げると、いつの間にかみんなが自分を見ていた。
隣の星野が蒼の腕を掴み、心配そうに見ている。
「お前、酷いな~」
蒼は焦った。
「あの……。平気なんです。すみません。気にしないで下さい」
「そう言われてもなぁ」
氏家は苦笑する。
「それは気になるでしょう?」
高田の言葉に蒼は俯く。
やっぱり休んだほうがよかった。
ふと関口に言われた言葉を思い出す。
『出来ないことを出来るって言ったってダメなの。誰も助けてなんてくれないんだからな。諦めろ』
あれは彼の精一杯の優しさ。
なんだか関口が恋しい。
どうして無断外泊なんて。
こんなときに……。
なんだか悲しくなってきてしまう。
涙が出そうになって我慢した。
「蒼……」
星野は、瞳を潤ませている蒼を心配そうに見ていた。
「おはよう」
水野谷は意気揚々と事務室に入ってきたが、いつもと様子がおかしいことに気づき首を傾げた。
「なんだ。お前の顔は?」
水野谷の第一声がそれである。
一同は苦笑した。
「なぜ笑う?」
「いえ。来る人来る人に同じこと言われているもんですからねえ」
吉田の説明に事務室は明るさを取り戻した。
事務所はいつまでも笑いが絶えない。
だけど、蒼の気持ちは晴れない。
なんだか憂鬱なまま仕事に入ることになった。
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