アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
23 すれ違い22
-
煙は天井まで昇っていって消える。
「具合悪そうでしたか?」
「喘息の発作で眠れなかったんだそうだ。目の下に真っ黒いクマ作ってきたよ。午前中は辛そうにしていた」
「……」
返す言葉もない。
怒られたほうがまだましだ。
星野にも。
蒼にも。
「お前なにしてんの?」
ちらっとよこされた、その視線をまっすぐにみることは出来ない。
「言っちゃ悪いけど。蒼は高級品だと思うぞ。ほったらかしにしていると横から持っていかれるからな」
それは分かっている。
関口にだって。
蒼がどんなに魅力的な人間であるか。
「おれは、お前が蒼を泣かせるようなことをしないって分かっているから預けたんだ。分かるな?おれの可愛い後輩を泣かせるようなことしたらどうなるか……覚悟しておけ」
「星野さん……」
彼はふと優しい視線を関口に向ける。
「きつい言い方で悪いけどな。蒼は、本当にお前のことを必要としているみたいだ。重荷になってたら申し訳ないけど、あいつの幸せを叶えてやってくれな」
星野は、本当に蒼のことを心配しているのだろう。
もしかしたら関口なんかよりも彼のことを考えている?
そんな疑問もよぎった。
「蒼を幸せにしてやれるのは、お前だけだと思ってるぞ」
「……すみません。おれのせいなんです。おれがはっきりしないから。蒼を振り回してしまって。ちゃんとします。もうこんなことがないように」
今度はまっすぐに星野のことを見ることが出来る。
彼もよしっっと笑顔になった。
いつもの星野だ。
ほっとしたのと同時に、早く蒼に謝りたい気分になった。
二人が並んでいると、ガラス越しに女性がこちらを見ていることに気がついた。
「知り合いか?」
星野は関口を見る。
「あ……」
女性は安岐だ。
関口はため息を吐いた。
「お前の新しい女?蒼と二股とはいい身分だなあ。あそっか。あれが今回の元凶かな?」
「違うんですよ!むしろ困ってるんですから」
「嬉しい悲鳴じゃないか」
星野はいつものようになにを考えているのか分からない様子で立ち上がる。
そして、ぽんぽんと関口の肩を叩いた。
「お前は昔から、どうでもいい人間に限って優柔不断なんだから。なんとかしないと誤解されまくりだぞ?」
確かにそうかも知れない。
好きな人。
蒼に関しては、はっきりした意見を持つことが出来る。
なのに、どうでもいい人間に対してはめんどくさいと言う思いが先行して、適当にあしらってしまうことが多い。
そういう性格も災いしているのかも知れない。
「じゃあな。なんとかしろよ」
「星野さん!」
またまた大きくため息がでた。
蒼のこと。
なんとかしないと。
彼と出会って半年。
この半年、彼のことを知った。
自分のことを知ってもらった。
蒼と肌を重ねた。
たくさん話をしたわけではないが、お互いの気持ちを理解していたと思う。
きっと彼は分かってくれるはずだ。
きちんと話そう。
元はといえば自分が招いたことだ。
蒼に謝ろう。
「蒼」
こんなに好きなのに。
すれ違ってしまうのはいやだった。
「圭」
ガラスの扉から安岐が顔を出す。
「安岐」
「よかった。今日、休みなのかと思っちゃった。今の人は?」
安岐は星野の行った方向を見つめる。
「事務の人だよ。練習に行こうか」
関口は安岐のことが見られない。
さっさと練習室へと向かう。
「圭……。あの今朝はごめんね。あの……」
安岐は俯いて席口の背中をじっと見詰める。
「悪い。安岐。もう終わってるんだ。おれたち。だから。もう関わるのはよそう」
「圭……」
関口は彼女を振り切り、さっさと練習室に入る。
これでいいのだ。
彼女のためにも。
これで。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
178 / 869