アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
24 宮内という男5
-
関口は市内でも有名なラーメン屋にやってきていた。
「公演は明日だろう?なんで今日からこっちに来てんだよ?」
関口は複雑な表情で友人の宮内を見詰める。
関口が所属している明星交響楽団は海外ツアーを終え、今週から全国ツアーが始まる。
今週からは金曜日から日曜日まで毎週のように日本全国を回らなければならない。
手始めにここから一時間半のところが公演地になっていたのだが。
ツアーの場合、交通費は支給されるが、行く方法や時期は各々に任せられる。
普通だったら、当日の午前中に現地入りをして、夜に本番と言う形が多い。
それなのに。
宮内は、前日の今日にやってきた。
「いいじゃん。明日はここから一緒に行こうぜ」
宮内はにこにこしてラーメンを食べる。
「怪しいな~。なにか企んでいるだろう?お前、ここに来るのは初めてだよな?今日は一日、なにしていたんだよ?」
湯気の立ち込める中、宮内はにっこり笑う。
「え?ナマ蒼がど~しても見たくなっちゃったしさ」
関口は、食べていた麺を吐き出した。
「ぶ~ッ!!」
「汚ったね~な」
「お、お前!まさかっ!」
関口は興奮で眼鏡まで曇ってしまっている。
店内は夜だというのに満員状態。
二人の声はざわめきに掻き消されてしまっていた。
「思った通りだった」
「ぶ~ッ!!」
ふたたび、関口は吹きだす。
「昼間行ってきたよ。星音堂。すぐ分かったよ。蒼」
「宮内!」
「確かに可愛いなあ。ぐしゃぐしゃにしたくなる。意地悪してねえ」
「宮内って!」
「1日早く来た甲斐があったな」
「お前さあ……」
呆れる。
蒼見たさに前日にやってきたのか。
油断も隙もない。
「まあまあ。いいじゃん。丁寧に説明してくれたよ。いろいろ」
「……」
「上手くやっているんだろう?いいことじゃん」
全然よくない。
なんだか自分の知らないところで宮内と蒼が逢ったのかと思うとイラっとした。
文句の一つでも言ってやろうと口を開いたとき。
後ろから声をかけられた。
「関口じゃない?」
振り返ると、そこには桃が立っている。
彼女は一人のようだ。
ここに女性一人で来るなんて勇気がある。
まあ桃ならやりかねないだろう。
「桃」
「あれ?蒼は?」
「桃こそ一人?しかもラーメンかよ?お前、女ならちっとはこういう場所遠慮しろよ」
「なに言ってんの?女がラーメン食べていけないって言う決まりがどこにあんのよ?」
むっとしている桃。
相変わらず強気な彼女だ。
関口はがっくりうなだれてからはっとした。
自分の横にいる宮内がふ~ふ~と顔を赤くして、きらきら目を輝かせているのだ。
「しまった!」
そういえば桃は、宮内のタイプかもしれない。
この女運のない男。
この男運のない女。
運のない男女だ。
桃なんてやめておけと思う。
尻に敷かれるのがおちだ。
「そちらは?」
桃も宮内に気が付いたらしい。
「明星オケで関口の友達の宮内です!飲みにでも行きませんか?」
宮内は勢い良く立ち上がり、桃の手を握る。
「……」
最初面食らっていた桃だが。
にっこり笑った。
関口には見せない笑み。
恐い。
なにか企んでいるとしかいいようがない。
「いいよ。暇だし」
「やった!よし!そうと決まったらさっそく!おい!関口!さっさと案内しろ」
なんで自分が。
「なんだよ。帰らせてくれよ……。蒼が待っているんだからさ」
「お前は友達に協力しようとか思わないわけ?」
宮内の形相はすごい。
途中で抜けて早めに帰ればいいか。
そう思った。
ラーメン屋を後にして、三人が向かったのは駅前の居酒屋。
入って5分。
いきなり宮内は桃の手を握って告白した。
「桃さん!おれと付き合ってください」
「は!?」
早すぎだろう!
関口は呆れて二人を見つめる。
どうせ断られて……。
「喜んで」
「え!?」
まだドリンクも来てないだろうが!!
「どこか、二人きりになれるところでお話しませんか?」
桃はちらっと関口を見る。
「そうだね。家に来る?」
「なんだよ?お前らに付き合ってきてやったのに……邪魔者?ってか!そんなことならここに来る必要がないだろうが!!」
呆れてしまう。
「関口はら本当に口が悪くて困っているんですよね」
「そうそう。本当に思いやりの心がなさすぎよねえ」
変なところで意気投合しないでもらいたい。
「お待ちどうさまでした」
店員がビールを運んできたときには帰り支度だ。
「お会計してちょうだい」
桃の言葉に店員は目が点になる。
「はい?」
「だから、お会計よ」
「……はい」
彼女は首を傾げて出て行く。
「さ、行きましょう」
「はい!」
さっさと出て行く二人。
取り残された関口はぽかんとしていた。
店員が伝票を持ってきたとき、そこにいた彼はビールをやけ飲みしている最中であった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
185 / 869