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26 夏の秘密1
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夏…といえば花火だろう。
蒼たちの街にもお決まりのごとく花火大会というものは存在する。
全国的に有名な花火大会から比べたら、たいしたことのないものだけど、市民としては楽しみにするしかない。
「今年の花火大会の遅番は誰だ~?」
水野谷は上機嫌で勤務表を見つめる。
目を逸らしたのは蒼と星野。
「仕組まれている……」
星野はちい!と舌打ちをする。
「お~お~。星野と蒼君か!」
わざとらしいなあと職員一同は思う。
蒼はパソコンに文字を入力する手を休めて、物思いにふける。
本当だったら、関口と花火大会なんていってみたいものだけど、今まで花火大会にはまったく縁がなかったのだ。
一緒に行ってくれる友達だっているわけじゃないし。
恋人なんてなおさらだ。
そう考えると、行けないからって損した気分には陥らない。
いつもの代わり映えのない生活。
それに、関口も全国ツアー中で今週末も遠征だ。
帰ってくるのは日曜日だし。
もともと一人だったから、仕事でよかったとも思えた。
しかし、星野は粘る。
水野谷の目を盗んでは吉田に「勤務を代わってくれ!」とお願いしている始末。
珍しいことだ。
去年までは「何が花火だ。花火なんて、星音堂からでも見られるだろうが」なんて悪態をついていたのに。
案の定、お昼休みに星野が煙草を吸いに席を立った瞬間、事務所内はその話題で持ちきりになった。
「どういうことだろうか?」
いつもはまじめな氏家まで参戦する。
「変ですよね。あのイベント嫌いの星野さんが遅番を交換してだなんて」
吉田も首を傾げた。
「彼女でもできたか?」
尾形の意見に一同は顔を見合わせた。
「ありえますね」
「イベントのときに休みたがる奴は、たいてい女が絡むしな。……おっと。蒼の場合は男か」
「へ!?ちょっと!氏家さん!!」
「まあまあ。今は、星野の話をしているんじゃないか」
そんなこんなで盛り上がっていると、噂の張本人が事務室に戻ってくる。
「なんの話だ~?楽しそうだな」
「星野さん」
一同は苦笑いだ。
「いや。ほら。花火大会の話だって。関口が悲しむよな。遅番では」
機転を利かせて尾形が話題を変える。
「関口はそういうイベント、案外好きだからな~。昔から花火大会っていうと星音堂に遊びにきてたっけ」
星野は昔を懐かしむように笑う。
花火大会の打ち上げ場所は星音堂から近い。
まあ、ちょっと高い建物やなんかがあるから、外に出ないと見られないけど、ここからでも十分に観察は出来るだろう。
「そうだ!」
蒼は手を鳴らす。
「吉田さんも居残りして。3人で見ましょう!」
「そうだな。一人者の吉田が早く帰ったって、寂しいだけだ」
尾形の同意に、吉田は「失礼な!」と怒る。
「いくら一人者でも、その日は友達と一緒に見に行く約束をしているんです」
「友達もどうせ一人者なんだろうが」
それを言われてしまうと痛い。
イベント時に友達と行くなんて、パートナーがいない証拠だ。
「いいんです!!そこで出会いがあるかも知れないじゃないですか!!」
ふがふがしている吉田をからかうと面白いのか。
尾形は更に続ける。
「ナンパする気か~!!お前!夏の恋は淡いぞ!」
「尾形さん!!!」
ちょっと怒ってから、自分がからかわれていることに気付いた吉田は面白くない。
ぶすっとした顔で椅子に座り込んだ。
蒼は、にこにこしてその様子を見ていたが、隣でがっかりしているような顔の星野に首を傾げた。
一体どうしたんだろう?
やっぱり恋人でも出来たのだろうか?
いつもだったら、一緒になって吉田をからかっているところなのに。
「変なの……」
蒼は思わず呟いた。
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