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28 新星現る3
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ホテルの一室。
ここはコンサートホールとホテルが一体になった施設だ。
たくさんあるホールの中で、中規模レベルのホールではあるが、新しく設備も十分に揃ったところで、最近では新鋭の演奏家たちがこぞって利用しているため、少しずつ名前の知られてきたホールでもある。
老舗のホールではなく、ここを選んだのは関口圭一郎のアイディアであった。
ショルティの日本公演は彼のデビュー公演でもある。
ガブリエルが多忙であるため、サポートとして彼が依頼されたのだ。
日本のことだったら圭一郎である。
圭一郎もなにかと忙しい身ではあるが、友人の頼みである。
断りきれずに、他の仕事をキャンセルしてまでやることになってしまっていた。
若手を育てる。
それも彼らの役割。
自分勝手に生きているようだが、若手には期待をかけている部分が多い。
自分の思いを継いでくれる演奏家が必要なのだ。
本当であれば、息子が一番なのだが。
圭一郎は新聞を開きながらも、ぼんやりと息子のことで思いを馳せていた。
早く飛び立ってもらいたいのだ。
いつまでもぐずぐずしていたら年ばかり重ねて、飛び出す機会がなくなってしまう。
若ければいいと言うこともないが、ある程度の限度と言うものがある。
20台後半になってしまうと遅咲き過ぎるくらいだ。
今が潮時。
そろそろ限界。
なにかいい方法はないだろうか……。
関口のことである。
きっと、無理に世界に引っ張り出そうとしても突っぱねて、自分の言うことなんて無視だろう。
むしろ、反発して余計に閉じこもってしまうかもしれない。
その可能性のほうが高い。
自分の息子のことだ。
よく分かっている。
困った。
同じ年頃のショルティはこうしてデビューを迎えていると言うのに。
「は~……」
大きくため息を吐いて視線を上げる。
目の前には、うろうろうろうろしている大男が一人。
『ショル!少しは落ち着いてくれ。新聞が読めないだろう?』
うろうろと歩き回っていた男、ショルティはぴたっと動きを止めたかと思うと、方向を変えて圭一郎のところにやってくる。
『関口!これが落ち着いてられるか!』
そんなに凄まれても困ってしまう。
新聞を壁にしてショルティとの距離をとる。
『そんなこと言ったって……。お前が慌てても、まだ来ないんだから……』
『いつ来る?有田はなんと言っている?』
大きいホテルの一室。
眺めのいいここは、スィートだ。
彼がリラックスできるようにと取った場所なのに。
逆だ。
いらいらして落ち着きなく歩き回られてしまったのではたまったものではない。
呆れて彼をたしなめた。
『これからゲネプロで夜は本番なのだぞ!?初めての一人立ちだと言うのに……。心配だ。ガブリエルからお前を託されたおれの身にもなってくれ』
心配している気持ちから出た言葉も彼には素直に響かない。
イラついているせいだろう。
ショルティはむっとして顔を背ける。
『そんなのは分かっている。関口に言われなくたって……』
納得しない顔でソファに座る彼。
圭一郎は釘を刺す。
『ちゃんとできないなら、蒼はお預けだぞ?』
『ノー!だめだ!きちんとやって見せる自信はある!蒼がいてくれればね!』
『……』
ため息を吐くほかない。
なんだか心配になってきてしまった。
もとも自己主張が強いのは日本人とも違うのだし仕方がないことだ。
そして、本番前で精神的に緊張が高ぶっていると言うこともあるのだろう。
だけど、それだけではない。
彼の精神を刺激している原因はもう一つ。
蒼だ。
本当に大丈夫だろうか?
ショルティの蒼への熱の入れようは圭一郎から見ても心配になってしまうのは確か。
一度、対面させてしまったのがまずかったか?
逢わないなら逢わないほうがよかった二人なのかも知れないな。
そう思っていても後の祭りである。
もう二人は出会ってしまったのだから。
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