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28 新星現る4
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自分の息子のことを思うと、罪悪感でいっぱいになった。
申し訳ないことをしてしまったと言う思いが強くなる。
何事もなく、今日と言う日が終わってくれることを祈るしかないだろう。
仕方がないのだ。
関口が写真を置き忘れてしまったこと。
ショルティが蒼の写真を見てしまったこと。
圭一郎が蒼と面識があったこと。
全てが重なってしまって起こった出来事なのだから。
「……」
そんな思いをめぐらせていると、チャイムが鳴った。
思わず時計を見る。
有田だろう。
そして、きっとそこには彼もいるに違いなかった。
『来たッ!』
ショルティは飛び跳ねて駆け出していった。
子どもじゃないんだから。
『転んで怪我するなよ』
もどうにでもなれだ。
新聞をたたんで自分も入り口に向かった。
その間にショルティは扉を開けている。
『有田!蒼は?』
食いつくように迫られて、さすがの有田も苦笑気味だ。
『お連れしております』
有田の後ろできょろきょろしている蒼を見つけて、ショルは嬉しそうに笑顔を見せた。
『蒼!良く来たね!』
『わわッ!』
蒼の悲鳴が聞こえる。
軽くため息を吐く。
そして、入り口の様子を見つめる。
蒼は、ぎゅうぎゅう抱きしめられていた。
「有田。ご苦労様」
不思議そうな顔で立っている有田に声を掛ける。
「先生」
「今日は休んでいていいよ」
「しかし」
「今日のおれの役目は、ショルのアシスタントだからね。アシスタントにアシスタントが着いていたのではしょうがない」
「はい」
有田は頭を下げてから方向を変えた。
「あ、有田さん!」
蒼は慌てて声を上げる。
「はい?」
「本当にお世話になりました」
ぎゅっと抱えられている蒼は、ショルの腕の間から顔を出し、頭を下げた。
「いいえ」
一瞬、目をまん丸にしていた彼だったが、苦笑して頭を下げた。
アパートからここまでの半日。
蒼は、有田といろいろな話をした。
彼は圭一郎との付き合いも長く、関口のことも小さい頃から知っているようだった。
楽しいひと時だったのだ。
関口に嘘をついて、不安だった。
だけど、有田との時間のおかげで気持ちは楽になった。
本当に感謝している。
長い廊下。
有田の後ろ姿が見えなくなると不安になった。
ショルに抱きかかえられていることも忘れて、ため息を吐く。
『蒼は礼儀正しいね。さすが日本人』
ふと上からの声で我に帰る。
そうだった。
この状況は……。
『あの。手を離して。痛いから』
ショルティを見上げる。
『ごめん。蒼は細いからね~。抱き心地がいいんだけど!』
そういう問題ではない。
困って再び彼を見つめる。
蒼の訴えは届くのか?
困った視線を受けて、彼はにっこり笑った。
『おれのことはショルでいいよ。蒼』
全く通じていない。
やっぱり。
アイコンタクトは、日本人じゃないとダメなのだろうか。
はっきり言わないといけないなんて、蒼には難しいことだった。
いつも曖昧に言葉を濁してしまうクセがあるから。
英語は話せても、海外に行ったり、外国人と接する機会はほとんどない。
馴染むのに時間がかかりそうだ。
『蒼。着物持ってきたよ!』
『え!?』
『是非、着てもらいたくて……』
そうだった。
そういう約束だった。
着物か。
着るくらいは出来ると思うけど、自信がない。
困っていると、圭一郎も同様な表情をしていた。
「すまないね。蒼」
「いえ」
圭一郎の立場もあるだろう。
ここはショルの申し出を素直に受けるしかない。
蒼は頷いてショルを見上げる。
『着ます』
『やった♪』
いつまでもべたべたされるのも嫌だし。
さっさと隣の部屋に移動する。
『着物きれる?誰か呼んだほうがいい?着物着せてくれる人いるって』
着物は、深い深い青色の生地に白の蝶柄が入っていた。
一見、シンプルだが、大きな柄は華やかさをかもし出していた。
しかし、問題が一つ。
『これって……。女物じゃあ……』
『ん?そうなの?女性、男性って別なの?おれはこれが一番、蒼に似合うと思ったんだけどなあ』
ショルティはしょんぼりする。
しかし、諦める気配はない。
着物と蒼と交互に見つめている。
いつまでもこんな調子では前に進まない。
もうどうにでもなれだ。
蒼は大きく頷く。
『平気!着るから。その代わり手伝ってもらえる?』
『もちろん』
ショルティは嬉しそうに笑顔を見せると、着物を蒼に渡した。
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